服部倫卓のロシア・ウクライナ・ベラルーシ探訪(ブログ版)

私のホームページ「ロシア・ウクライナ・ベラルーシ探訪」(http://www.hattorimichitaka.com)のブログ版です。

カテゴリ: 学問のすゝめ

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 こんな新刊のご紹介をいただきました。安達祐子著『現代ロシア経済 ―資源・国家・企業統治』(名古屋大学出版会、2016年)。「ソ連解体からエリツィンを経てプーチン体制へ、未曾有の経済危機から新興国へと成長したロシア経済を、資源のみならず、独自のガバナンスの重要性に着目して包括的に叙述、移行経済におけるインフォーマルな国家・企業間関係の決定的意味を捉え、ロシア型資本主義の特質に迫る」といった内容。

現代ロシア経済―資源・国家・企業統治―
安達 祐子
名古屋大学出版会
2016-02-08


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 明石書店のエリアスタディーズのシリーズから昨年発行された『カザフスタンを知るための60章』。個人的に特に印象に残った箇所について、簡単にコメントさせていただきたい。

 本書を読んで、遅れ馳せながら認識するに至ったのは、現在あるカザフスタンという国の原型と言えるのが、15世紀後半に成立したカザフ・ハン国であるという点だった。面白かったのは、野田仁「第15章 カザフ・ハン国と中国・清朝」の中で、当時のカザフは清朝に朝貢する一方、ロシア帝国に対しても臣従を誓っており、「むしろ両者の間でバランスを取る双方向的な外交を展開しようとしていたと見ることができよう」と指摘されていたことである。それって、現代とまったく同じじゃんと(笑)、妙に得心してしまった。

 地田徹朗「第20章 カザフ共和国における民族と政治」は、個人的にもとりわけ関心の強い分野であり、掲載されている「カザフスタン共産党政治エリート一覧(1920~1991)」も大変に有用な資料である。これを見て改めて気付いたのだが、かのレオニード・ブレジネフは、1955~56年にカザフ第一書記を務めたのか。後年のクナエフ第一書記の体制も、ブレジネフの治世と表裏の関係にあったわけで。ブレジネフって、ウクライナに生まれたロシア人で、カザフで処女地開拓して、書記長に上り詰めて偉大なる安定と停滞の時代を作り上げてと、考えてみればソ連体制そのものみたいな人で、翻ってそれがカザフスタンというものも作っていったんだろうなと、そんなことを感じた。また、この第20章で指摘されている、カザフのナショナリズムが必ずしもロシア人との敵対に結び付かず、むしろ小民族への迫害として表れたというくだりも、興味深かった。

 野部公一「第22章 遊牧地域からソ連の食料基地へ」は、当地におけるスターリン時代の農業集団化の悲劇について伝えている。これによると、カザフ人が集団化に家畜屠殺などで対抗した結果、カザフでは大飢饉がもたらされ、「一説によれば、集団化による(ソ連全体の)飢饉の犠牲者は220万人にものぼり、このうちカザフ人は145~175万人にも達したと見られている」という。先日エッセイに書いたように、現ウクライナ政府および国民は、1932~33年のソ連の飢饉はウクライナで集中的に発生し、これはスターリン体制によるウクライナ民族の意図的なジェノサイドであったとの解釈を示しているわけだが、それとの整合性の問題が浮上するとともに、なぜカザフにおいては大飢饉の歴史が反ロシア・ナショナリズムに直結していない(?)のかという点にも興味が湧いた。同じく野部公一による「第47章 『新興小麦輸出国』の憂鬱」は、現代の農業事情を論じている。小麦の販路拡大に苦心しているカザフが、小麦粉輸出に活路を見出し、本稿によれば、2007年以降世界最大の小麦輸出国となっているとのことである。

 湯浅剛「第23章 ソ連崩壊とカザフスタンの独立」は、私などは普段ロシア・ウクライナ・ベラルーシの視点から考えているテーマを、中央アジアおよびカザフスタンの観点から整理しており、興味深く読んだ。なお、この中で、カザフスタンが独立宣言を行ったのは1991年12月16日で、「ソ連構成国では最後であった」との記述がある。本件について私の立場から申し上げれば、ベラルーシでは最後まで「独立宣言」は採択されなかったというのが、私の認識である。ベラルーシでは、「国家主権宣言」が採択され、後日これに「憲法的ステータス」を与える決議が採択されたにすぎない。確かに、一般的にこれをもってベラルーシも独立宣言を採択したと解釈されることが少なくないが、私の見るところ明らかに後付けの解釈であり、ベラルーシは独立宣言を採択することなくソ連崩壊を迎えて不可抗力的に独立してしまったというのが、真相に近いと考えている。

 「第27章 父系出自と親族関係」をはじめとするカザフ社会に関する藤本透子の一連の論考は、個人的に知らないことばかりで、非常に新鮮であった。もしもエリアスタディーズのシリーズでウクライナやベラルーシを取り上げたとしても、社会や家族の問題でこういうエキゾチックな話題はないので、このような章はまず成り立たないだろう。

 私はサッカーファンなので、アルマン・マメトジャノフ「第40章 スポーツ事情」には、若干注文がある。サッカーに関し「カザフスタンは初めアジアリーグに所属したが、現在はヨーロッパリーグに所属し、イギリスやドイツと対戦している」とあるが、まず「リーグ」ではなく「連盟」とすべきであろう。また、サッカーの世界にイギリスという主体はなく、存在するのはイングランドはじめ4協会である。個人的には、かつてカザフがAFCに在籍していた当時、サッカー日本代表がカザフ代表とワールドカップ出場をかけた予選で激突し、その試合の結果を受けて日本代表監督が解任されたという史実には、ぜひとも言及してほしかった。この試合でカザフスタンという国の存在を認知した日本人も多かったのだから。「大陸ホッケーリーグ」という訳語もあまり一般的ではなく、「コンチネンタル」と訳してほしかった気がする。それから、カザフスタンのサッカーでは民族的なロシア人の活躍が目立つ印象があり、そのあたりの事情への論及もあったら、なお良かったように思う。

 岡奈津子「第52章 在外カザフ人のカザフスタンへの移住」も、大変に示唆に満ちた考察である。特に、外国からカザフスタンに移住してきたカザフ人の方が、ソ連時代にロシア化が進んだ現地カザフ人よりも、往々にして民族言語・伝統を保持しており、それにより逆説的な形でカルチャーギャップが生じているとの指摘には、驚かされた。

 宇山智彦「第60章 日本のカザフスタン外交」は、カザフ独立直後に現地の大使館に専門調査員として赴任した著者による論考であるだけに、ウズベキスタンやクルグズスタンと比べて日・カ関係が当初停滞した内情などが非常に良く分かる内容となっており、「なるほど、そういうことだったのか」と認識を新たにさせられる点が多々あった。

 ただ、本書刊行後に、安倍首相が中央アジア歴訪の一環としてカザフを訪問しており、現時点では二国間関係拡大に向けた機運が大いに高まっているところである。そうした折でもあるので、ユーラシアの最重要国の一つとして浮上するカザフスタンを理解するための必携の書として、本書をぜひお薦めしたい。



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 もう10年ほど前に出た本だけど、明石書店の「エリアスタディーズ」の一環である『コーカサスを知るための60章』。今般、用事があって、改めて通読したので、特に印象に残った点だけメモしておく。

 まず、コーカサスは基本的に、南コーカサスに位置するアゼルバイジャン、アルメニア、ジョージアという3つの独立国家と、ロシアの一部である北コーカサスから成る。しかし、民族の数となると数十に及び、言語や宗教と相まって、狭いエリアに複雑なモザイクを織り成している。したがって、本書『コーカサスを知るための60章』も、大半がその複雑な民族・言語・宗教・文化・歴史模様を描くことに費やされており、国民国家単位であることが多い本エリアスタディーズのシリーズにあって、異色の巻となっている。

 久保友彦「第2章 栽培植物起源地としてのコーカサス」は、個人的にまったく門外漢な分野であるだけに、とりわけ興味深い。小麦、リンゴ、ブドウといった人類にとってきわめて有用な作物が、コーカサス起源であるというのは、知っておいて損はないだろう。

 前田弘毅「第10章 神話世界の中のコーカサス」は、非常に示唆に富んでいる。その末尾にある一節が、特に強く印象に残った。「こうして考古学など民族の神聖な過去を探求する歴史学はまさに『エリート』の学問となり、政治的な影響を強く受けるような構造が定着してしまう。ソ連が崩壊し、歯止めを失ったコーカサスの民族主義のリーダーとなった人物に歴史学者が多いのは偶然ではない。豊潤な古代史と彷徨する民族の歴史は、そのまま現代の不毛な民族間戦争につながってしまっている。」

 森田稔による「第41章 山々にこだまする男声合唱の響き」、「第48章 西洋との接触から生まれたコーカサスの国民音楽」は、見事としか言いようのない論考である。同様に、松田奈穂子「第49章 舞台舞踊としての表象」、「第57章 兄弟の歌」にも教えられるところが大きく、とりわけモイセーエフ舞踏団についてのくだりはとても勉強になった。

 家森幸男「第51章 コーカサスの長寿食文化」は、民族料理の話なのだが、それをグルメ情報的な切り口にするのではなく、医学者による栄養学的な観点の議論として取り上げている点が、なかなか斬新であり、コーカサスならではだなと感じた。もちろん、これはこれで重要な論考だが、ただ一般の読者からすると、もうちょっと代表的な料理とか、もっと言えば当世レストラン事情なども別途あったら有難かっただろう。

 というわけで、知り合いの研究者が書いた現代事情などに関する章よりも、やはり自分の知らない分野の章の方が、新鮮な発見が多かった。グルジアがジョージアに変わったことだし、そろそろ改訂版でも、どうですか。



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 このほど読了した本。野口悠紀雄著『「超」情報革命が日本経済再生の切り札になる』である。私は野口先生の信者で、出た本はほとんど全部読んでいる。なので、本書を読み、同意できる点が多い反面、「以前も読んだな」という話が多かった。「『超』情報革命」というのは、単にITの飛躍的な発展のことだし。安倍内閣の「新3本の矢」や、TPPについての評価は、新しい話題だが。

 野口先生は、近年の著作で、製造業亡国論を執拗に主張しておられる。

 「要素価格均等化定理」が予測するように、日本の産業構造が中国と同じなら、賃金はいずれ中国並みに低下する。 ここで「要素価格均等化定理」とは、「異なる国の生産技術が同じであれば、その技術を用いて生産された製品が自由貿易されることによって、貿易できない土地や労働などの生産要素の価格も国際的に均等化する」という定理である。

 そして、超情報革命が進んだからこそアメリカ経済が目覚ましい成長を遂げつつあり、日本は円安誘導で製造業を守ることに固執して、それにより中国と同じ土俵に自ら乗っかってしまっていて、だから賃金水準は中国と同一化していき、消費が伸びず経済が成長しないと、そのような図式を描いている。パナソニックは、アップルのようなやり方でやらないから、企業価値が高まらないのだ、と。

 私自身は、野口先生のご指摘は、分析としては正しいかもしれないが、ではパナソニックが本当にアップルのようになる可能性があるのか、日本がアメリカのようになれるのかというと、心許ない気がする。野口先生ご自身、本気で日本のアメリカ化を主張しているのか、それとも日本のアメリカ化は理論上の可能性にすぎず、「彼我はこれだけ違うから駄目なのだ」という諦念を表明しているのか、本書を読んでいて、良く分からなくなってきた。それに、アメリカ型経済に付き物の貧富の格差の拡大や、アップルやグーグルのような企業が雇用や納税でどれだけ貢献できているのかという疑問もある。



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 行きの飛行機の中で読んだ雑誌。『週刊エコノミスト』の特集「世界経済危機の予兆:暴れる通貨:米独り勝ち経済とドル高の行方」。この特集の冒頭に、「2015~16年に自国通貨が市場最安値を更新した国・地域」という図解が出ているのだけれど、それを見ると、私の所属団体の事業対象国は、すべて該当することが分かって、思わず苦笑いした(唯一の例外はアルメニアのようだ)。ただ、確かにロシア・NIS諸国を含む新興国の通貨下落は著しいが、本特集の議論は名目レートに偏りすぎている印象を受けた。ロシアについての記事でも、実は2015年のルーブルの実質実効為替レートはルーブル高でしたなんて情報が盛り込まれていたら、さらに良かったかもしれない。

 とにかく、目先の通貨の乱高下が激しく、それゆえにこういう雑誌の特集も組まれるわけだが、FXトレードに手を出しているような人は別として、普通の市民が短期的な円高だの円安だのといったことを予見できるはずもなく、そんなことで右往左往しても仕方がないだろう。そういう観点から言うと、この特集で個人的に一番ためになったのは、市川雅浩さんという人の書いた「購買力平価で見るドル・円」というコラムだった。為替レートが長期的には購買力平価の水準に収斂していくというのは良く知られているわけだが、その際に購買力平価にも企業物価ベース、消費者物価ベース、輸出物価ベースとあり、それらは微妙に乖離している。本コラムによれば、実勢レートは、3つの中で最も円安の消費者物価ベース寄りで推移すると予想されるということであり、ドル・円は長期的には110~127円の幅で動いていく可能性が高いとされている。なるほど、これは勉強になった。



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youbi

 あまり意識したことがなかったけど、こちらのサイトに見るとおり、ビジネス系の週刊誌の発売日というのは、月曜日に集中しているのか。ここには出ていないけど、日経ビジネスもそうだし、AERAなんかも月曜日のようだ。サラリーマンが働き始める月曜日に発売して、1週間かけて売っていくという方式なんだろうな。月曜日発売ということは、週末にサプライズ的なことをされると、もう校了していて、その話題を誌面に盛り込むのは無理だろう。なので、今、世に出回っているビジネス週刊誌には、金曜日午後に発表されたマイナス金利導入は大きく取り上げられていないみたい。まあ今回は偶然そういうタイミングの発表になったのだとは思うが(当局としては効果を上げるためにマスコミにも大きく取り上げてほしいだろうし)。


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 これはなかなかためになる本を読んだ。津上俊哉著『巨龍の苦闘 中国、GDP世界一位の幻想』である。最初にいやらしい話をさせていただくと、この本、紙バージョンでは864円で、それでも内容からすれば充分安いと思うが、現時点ではKindle版で何と259円になってる。ありがたや。角川新書って、出てからしばらく経つと、Kindle版は急に安くなるみたいだ。

 最近、大型書店の海外事情や経済コーナーに行くと、中国がもうすぐ崩壊すると断言するような書籍が多いけれど、この津上氏の本は、新書と侮ることなから、非常に冷静な内容になっている。

 東アジアの国際情勢について言うと、この六年間、世界中が信じた「中国の高成長は長く続き、早晩GDPで世界一になる」という幻想によって、安全保障環境が大きく攪乱されてしまった、というのが私の年来の主張です。

 中国はそこで生まれた「栄華」の陶酔感に浸って、傲慢で強硬な対外姿勢を取ったし、日本でもそのせいで生まれた極端な恐中・反中心理が国中を覆いました。この二つの現象は、一つの幻想が生んだ双子のようなものです。時間はかかると思いますが、日中双方とも幻想に踊らされる状態から早く脱却して、東アジアを正常な状態に戻すことが双方の利益に適うはずです。

 と、前書きに書かれているとおり、どちらの極論にも与さない、非常にバランスのとれた中国論が披露されており、個人的にも大変勉強になった。習近平政権の課題、一帯一路(新シルクロード)とアジアインフラ投資銀行の内実、「反日」の真実など、教えられることばかりだった。



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 個人的に、読書量は元々少ないタイプだけれど、2015年はほとんど、金融・投資の本と、中国の本しか読まなかったなあ。ロシア研究者なのに、ロシア圏についての単行本は、下斗米先生の新著しか読まなかったような。

 で、これも金融・投資ものの一環なのだけど、このほど桐谷新也著『日本国債暴落― 「確実に起きる危機」のストーリー』を読了した。正直に白状すれば、書店の店頭でタイトルと表紙だけ見て、「お、これは面白そうだ」と思って購入したのだが、いざ読み始めると、当てが外れていた。経済分析、またはノンフィクションを期待していたのだけれど、蓋を開けてみたら、本書は経済小説だったのだ(良く見たら帯にも「ノベル」って書いてあるし)。まあ、せっかく買ったんで、読んでみた次第。

 もっとも、本書は小説でありながら、主人公とそのパートナー女性との問答などを通じて、国債の基本を学べるように配慮されている。本書で示されているアベノミクスの効果、それが日本経済を大きなリスクにさらしていることなどに関しては、個人的にも同意できる。しかし、物語が終盤に差し掛かるに連れ、話が主人公の心情的な部分ばかりにフォーカスしてしまい、起こりうる経済事象のスケールが描き切れていない。まあ、途中までは、それなりに興味深くは読んだが、小説としても経済シミュレーションとしても中途半端な印象は否めない。



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 この週末には、第55回比較経済体制学会全国大会が東京で開催された。私自身は時間がなく、2日目の共通論題「世界経済の地殻変動」の午後の部しか聴くことができなかったが、米ドル、中東、原油問題を扱った午前の部にも、無理してでも出ればよかったと、後悔している。

 会場は水道橋の日本大学だったが、間違えて御茶ノ水の明治大学に行ってしまったというのは、私だけの秘密である。


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 この本は出たばかりの新刊で、タイトルにつられて買ったけど、中身はちょっと微妙だったかな。日本の財政が危機的状況にあることは周知のとおりで、最悪シナリオの一つとして日本政府による預金封鎖という措置がありうるという指摘は少なくないけど、この本はそれを終始、終末論的なトーンで論じている。それもそのはずと言おうか、著者の石角氏は民族的には日本人ながら、ユダヤ教に改宗してユダヤ人になった人だそうで、「不道徳なこの世に審判が下る」といった、旧約聖書的な世界観になっている。その終末に相当するのが、著者の言う世界経済の「ファイナル・クラッシュ」であり、つまり著者は日本の財政破綻だけでなく、アメリカの崩壊も含め、世界経済が現代で稀に見る崩壊に近付きつつあると論じているわけである。次のような、予言者的なくだりが象徴的だ。

 最終的なクラッシュに至って初めて、アメリカや日本の人々は政府に踊らされて無用な消費に走らされ、貯蓄を使い果たした愚かさを噛みしめる。そして浪費を奨励する政策から、質素に生きることへと国民の合意が転換する。ファイナル・クラッシュが訪れた後の世界では、節約とか倹約が社会基準になり、欲深い経済活動、強欲な資本、そして過剰な消費はむしろ恥であり、受け入れられるべきではないとみなされるだろう。(本書208-209頁)

 まあ、価値観としては分からないでもないが、「あれもだめ、これもだめ、ゆえにファイナル・クラッシュは不可避」といった必然論ではなく、もっと具体的かつ緻密なシナリオを示してほしかった。

 多くの読者は、「日本の銀行預金が封鎖される恐れがあるのなら、どういう対策をとったらいいのか?」という関心を抱いて、本書を手にすることだろう。しかし、そうした具体論は、本書では乏しい。著者が示唆しているのは、世界の人口が増加する中にあって、資源・商品への需要は確実に増大するので、エネルギー・金属・穀物などは価値が失われず、なかんづく金(ゴールド)は信頼性が高い、という点である。通貨としては、(国際化することを条件に)中国の人民元が有望で、またスイス・フラン、シンガポール・ドル、スウェーデン・クローナといった通貨が金融リスクが少ない、としている。ただ、いかんせん、では具体的にどこに出向いてどうしたらいいのかという突っ込んだ情報が乏しく、実用書としての使用には堪えない。

 本書では、ロシアのポテンシャルは比較的高く評価されており、ファイナル・クラッシュ後の世界では、ユーロ、米ドル、中国元、ロシア・ルーブルという世界経済の4極ブロック化が加速する、などとされている(178頁)。ロシアおよびルーブルに、そこまでの潜在力はないだろうと、軽く突っ込んでおく。

預金封鎖
石角完爾
きこ書房
2015-10-10


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 当ブログで以前、『日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル』という本を取り上げたが、それ以来、著者の橘玲さんという方が気に入ってしまい、またツイッターに返信をくれたりしたものだから親近感も湧き(笑)、他のご著書も2点ほど読んでみたのである。その一つ、『橘玲の中国私論』について、ちょっとメモしておこう。その内容は、

 作家・橘玲が世界を歩きながら、経済・金融・歴史などについて独自の感性と考察によりさまざまな事象に新解釈を加えていく新シリーズがスタート。 今回は、日本の隣の国、中国がテーマ。

 尖閣問題など緊迫する日中関係。国家の成り立ち、社会構造が全く違うにもかかわらず、なまじ顔かたちが似ているせいで理解しがたい行動に不満が大きくなる。交流した現地の中国人、歴史、社会システムなどから、巨大な隣人の真実を大胆に解き明かす。

 経済・金融、人生論、社会批評まで幅広い活躍を続ける橘玲氏による独自の中国社会評論。

 中国各地に点在する世界史上稀に見る、鬼城-ゴーストタウン-の観光ガイド付き。

 「なぜ中国人はひとを信頼しないのか?」「なぜ反日なのか?」「なぜ中国は鬼城-ゴーストタウン-だらけなのか?」  中国共産党、中国人の精神構造、シャドーバンキング、史上稀に見る不動産バブルの実態、官僚腐敗、反日、日本の戦争責任など扱うテーマは多種多様。

 というものだ。もちろん、橘氏自身はプロパーの中国専門家ではないわけだけど、かなりディープなところまで中国国土を訪ね歩き、また大量の先行研究も踏まえて書かれているので、非常に真に迫っている。まあ、先行研究の美味しいところを上手く盛り付けているという感じもなきにしもあらずで、どこまでが著者オリジナルの考察なのかが分かりにくい部分もあるが、一般読者を啓蒙する意味は非常に大きいだろう。

 本書の記述は、中国に直接関係ない部分も含め多岐にわたり、電子書籍で蛍光ペンを引きながら読んでいたら、蛍光ペンだらけになってしまったので、どこを紹介したらいいか、迷うところである。差し当たり、「中国の問題は、制度的に管理可能な限界を大きく超えて人口が多すぎることにある。近代世界に、近世的なルールで統治するほかはないきわめて不安定な国家がある。私たちは、この巨大な隣人を待ち受ける運命に巻き込まれることから逃れることはできない。 これが日本にとっての『中国という大問題』なのだ」という著者の結論を引用させていただく。

橘玲の中国私論
橘 玲
ダイヤモンド社
2015-04-06


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kaigaitoushi

 昨日の話の続き。アベノミクスにより、日本の財政・経済の潜在的リスクがますます肥大化しつつある中で、いよいよそれが本当に立ち行かなくなる日が来る危険性を直視せざるをえず、では私たちはそれに備えてどうしたらいいのかを考えてみようという談義である。で、私も経済の研究者の端くれなので、経済や投資についての勉強をしつつ、ついでにシルバーウィークの読書三昧を兼ねて、いくつか書籍を読んでみたというわけである。まあ、「資産防衛」などと言っても、「お前には守るに値するほどの資産などあるのか?」と言われればそれまでなのだが(笑)、いやむしろ、なけなしの蓄えしかないからこそ、真面目に考えなければ大変な目に遭うのではないかと懸念するのだ。

 私の問題意識に一番近い本は、橘玲『日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル』というものである。もっとも、この本は新規ではなく、すでに2年前に読んで本ブログにもレビューを書いているのだが、今回改めて読み直してみた。橘玲さんというのは、学者ではなく、経済小説などを書いている作家のようだ。この本では、日本が財政破綻する危険性は、やはり無視できないという前提に立っているように思われる。本書の冒頭に掲げられた短編の近未来小説が、否が応でもその不安感を高める。しかし、それ以降の本の中に書かれている日本破綻への備えの方法論は、拍子抜けするほど冷静で、一見悠長とも言えるものである。著者が強く主張しているのは、破綻は一夜にして生じるわけではないので、その進行に応じて、段階的に対処すればいいという点である。以下、引用させていただく。

 経済には強い継続性(粘性)があることです。 仮にの「破滅シナリオ」が現実のものになったとしても、それは次のような順番で進行するでしょう。 第1ステージ 国債価格が下落して金利が上昇する。 第2ステージ 円安とインフレが進行し、国家債務の膨張が止まらなくなる。最終ステージ(国家破産) 日本政府が国債のデフォルトを宣告し、IMFの管理下に入る。書店に行けば「国家破産」のタイトルのついた本が並んでいます。日本国が抱える1000兆円の借金を考えれば、誰も財政破綻の可能性を否定することはできません。 しかしここで強調したいのは、別の単純な事実です。〝危機〟は第1ステージから第2ステージ、最終ステージへと順に悪化していくのですから、ある朝目覚めたら日本円が紙くずになっていた、などということは絶対にありません。だとすれば私たちは、いたずらに「国家破産」を心配する必要はありません。仮に日本国がデフォルトするとしても、それまでの間に自分と家族を守るための時間はじゅうぶんに残されているのです。

 ・・・・・・〝臆病な投資家〟への私の提案は、日本経済の未来のうち、「楽観シナリオ」と「悲観シナリオ」、および「破滅シナリオ」の第1ステージまでは普通預金こそが最強の資産運用だということです。 もちろん、「破滅シナリオ」の第2ステージである大規模な経済的混乱が起きれば、普通預金だけで資産を守ることはできません。しかしその場合でも、プライベートバンクやヘッジファンドなど「高度な資産運用(といわれているもの)」に頼らなくても、近所の銀行や証券会社(もしくはネット銀行・ネット証券)で売っている3つの金融商品だけでじゅうぶん対応可能です。 金融市場の正しい知識と資産運用の原則さえ知っていれば、「最悪の事態」が起きたとしてもなにひとつ慌てることはないのです。


 次に、今回新たに紐解いてみたのが、田村正之『老後貧乏にならないためのお金の法則』という今年出た新刊である。その内容は、「確実に目減りする預貯金、実質減額されていく年金、物価の上昇 ―長い長い老後の生活資金はどんどん枯渇していきます! でも、大丈夫。資産運用から、年金・保険や相続財産の賢い活用法、住宅まで、今なら間に合う老後貧乏脱出法をやさしく解説します」というもの。非常にカジュアルにまとめられた本でありながら、内容はとてもしっかりしており、なおかつ実践的で、有用な書籍だと感じた。貯蓄や資産運用だけでなく、医療・保険、住宅、年金、相続など、老後への備えの問題が多面的に扱われているのが、この本の良いところだろう。資産運用に関しても、堅実な方法論が示されており、信頼できる。他方で、本書は日本の財政破綻のような非常シナリオは想定しておらず、その点に関する若干の疑問が残った。

老後貧乏にならないためのお金の法則
田村正之
日本経済新聞出版社
2015-06-26

 さらに、岡村聡『完全レベル別 30代~50代のための海外投資「超」入門』という本も読んでみた。その内容は、「日本の多くの個人投資家の運用スタイルは、真の意味での投資にはほど遠い、短期志向の投機的なものであり、スキルに乏しい人が過大なリスクをとった投資を行い、大きな損失を出す結果となっている。 本書では、前提知識が一切なくとも、基本編からスタートして、初級編・中級編・上級編へと順番に読み進めていくことで、投資に必要な知識とスキルを体系的に学べ、投資家としてレベルアップしていくことができる。 自己資産をすべて海外に投資し、2009年以降年率平均15%以上のリターンをあげつづけ、マネー誌・一般誌で人気連載中の著者が初めて書いた、誰でもゼロからはじめられて、確実に利益を出せる海外投資の完全マニュアル。月1000円からはじめられて、30年間で3000万円の資産を無理せず築くことが可能なノウハウを明かします。」というものだ。謳い文句を見ると、何やらキャッチーな印象を受けてしまうが、読んでみたところ、内容は非常に堅実で全うである。具体的なノウハウが綴られているので、すぐに実践できそうである。ただ、本書は2012年に出たものなので(電子書籍のKindle版が出たのが2014年なので、新しい本のように錯覚して買った次第)、アベノミクス発動後に状況が変わった部分もあるし、金融商品の情報も若干古くなっているところがあるかもしれない。また、今回紹介している書籍は、すべて電子書籍のKindle版で読んでおり、ゆえにテキストのコピーが容易でブログを書いたりする上で便利なのだが、この『完全レベル別 30代~50代のための海外投資「超」入門』は技術的に古い仕様であり(どうもPDFになっている模様)、テキストのハイライトやコピーができず、それが不便である。まあ、充分参考にはなったので、元はとれたのではないかと。


 あと、こんなのも読んでみたよ。『日経トレンディ』(2015年10月号)「どっちが得する?お金の〇と×」という特集号。まあね、これはごく短期的な視点に立った損得の話であり、「当面の資産運用、ドルとユーロ、とっちがお得?」といった話ばかりだから、中長期的な日本リスクに備えるという用途には向かない。

日経トレンディ 2015年 10月号 [雑誌]
日経トレンディ編集部
日経BP社
2015-09-04


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 私は日本という国の将来、特に財政の持続性について、リアルガチに心配している。そして、例のインチキノミクス、じゃなかった、アベノミクスとやらによって、残念ながら財政破綻の危険は加速していると認識している。このあたりで、そうしたリスクを前提とした上で、自分自身の将来的な生活設計のようなことも真面目に考えなければならないなと思い、ここ1ヵ月ほど関連する書籍を読んだりしているわけである。

 その一環として、今般読了したのがこれ。野口悠紀雄著『1500万人の働き手が消える2040年問題』である。まあ、正直に言うと、この本は野口先生が以前から唱えていた論点を繰り返している側面が強く、それを「2040年問題」と括ってみせた点に新味がある程度で、これを読んで特別新たな知見を得たという感じはしなかった。しかし、日本経済・社会の将来像が、これだけ冷徹に描かれると、「やはりこの現実を直視せざるをえないのだな」と、危機感を新たにせざるをえない。「はじめに」の部分で、本書の論旨が要領良くまとめられているので、やや長いが、引用させていただく。

 日本社会は、世界でも稀に見る人口高齢化に直面しており、これが経済のさまざまな側面で深刻な問題を引き起こす。65歳以上人口の増加は2040年ごろまで続くので、これを「2040年問題」と呼ぶことにしよう。 その中でもとくに重要なのは、つぎの2つである。第1は、日本経済が労働力不足経済に突入することだ。これを反映して、経済政策の目的を大きく転換させる必要が生じる。これまでの日本では、「雇用の確保」が経済政策の重要な目的だった。しかし、今後は「人手の確保」のほうが重要な課題になる。また、これまで賃金上昇は望ましいことと考えられてきたが、労働供給の減少による賃金上昇は、コストプッシュ・インフレを引き起こすという意味で、望ましくないものと見なされる。こうした大きな変化が生じつつあることは、まだ十分に認識されていない。 第2は、社会保障給付の増加である。高齢者の増加によって、現在の制度が破綻する危険がある。破綻しないとしても、財政的に大きな負担となる。財政赤字の抑制を消費税率の引き上げだけで実現しようとすれば、税率を30%近くまで引き上げる必要がある。これは、社会保険料負担と相まって、過大な負担を労働年齢人口にかけるだろう。 医療・介護部門は、これまでの日本で唯一の成長産業であり、就業者が高い率で増加し続けた。高齢化によって医療・介護への需要が増大するため、今後もこの部門が最大の成長産業となるだろう。若年者人口の減少によって労働供給が減少することを考えると、医療・介護部門の就業者が総就業者中に占める比率は、25%程度まで膨れ上がる可能性がある。これは、とても維持することができない異常な経済構造だ。 こうした事態に対処し、日本経済の劣化を食い止めるため、新しい産業を生み出す必要がある。短期的景気動向も重要だが、それに目を奪われて本当に重要な問題を見失ってはならない。

 将来を見通したとき、つぎの2つのシナリオが考えられる。第1は日本経済劣化シナリオだ。日本経済は、1990年代をピークに、長期トレンドとして劣化している。その底流には冒頭で述べた人口高齢化があるが、新興国の工業化や新しい技術体系であるIT(情報通信技術)に対応できなかったことも大きな原因だ。このトレンドが継続すれば、財政破綻、インフレ、際限のない円安、日本売りといった悪循環に落ち込むことが懸念される。 しかし、第2のシナリオとして、「改革・発展シナリオ」を考えることもできる。それを実現するには、財政、とくに社会保障制度の改革が不可欠だ。また、高齢化社会に対応した税制をつくり、地方分権を進めることも必要だ。 しかし、それだけで新しい産業が生まれるわけではない。新興国の工業化や新しい技術体系の進展を考えれば、日本の将来をリードすべき産業は、従来型の製造業ではない。安倍晋三内閣の成長戦略は、そうした視点がないという意味で、アナクロニズムと言わざるをえない。新しい産業構造の姿を探る必要があり、その際に、90年代以降に生じたアメリカ産業構造の変化は有用なモデルとなる。 ここ数年、安倍晋三内閣による経済政策「アベノミクス」に期待が寄せられた。しかし、それは短期的効果だけを狙ったものであり、円安投機を煽っただけだった。それによって大企業の利益が増大し、株価が上昇し、株式保有者に巨額の利益がもたらされた。しかし、円安によって消費者物価が上昇したため実質賃金は下落し、実質消費が減少した。つまり、デフレから脱却したために経済成長が抑制されたのである。これは「デフレ脱却」というアベノミクスの基本目標が誤りであることを示している。

 ちなみに野口先生は、「発電の火力シフトによる輸入増加額は4・3兆円程度だ。原油価格の低下による輸入減少額は、これよりずっと大きい。言い換えれば、貿易収支上の理由から原子力発電の再稼働を急ぐ必要はなくなった、ということになる」、「法人税率の引き下げで製造業がイギリスに回帰し、その結果経済が成長しているといわれる。しかし、すでに見たように、製造業が成長を牽引しているのではない。こうした報道がなされるのは、日本で製造業を復活させるため、原子力発電所を再稼働して電力コストを下げたり、法人税率を引き下げたりすることを正当化する理由として使いたいからだろう。しかし、実態は右に述べたように、まったく異なるものだ」と、日本政府のエネルギー政策についても批判的な指摘をしておられる。

 このように、アベノミクスと称するものが、日本の財政・経済をより一層袋小路に追いやりつつある中で、さてそれでは我々はどのように自らの生活や資産を防衛したらいいのだろうか? 長くなってきたので、続きは明日。



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 夏休みに読んだ本。尊敬するIT評論家の西田宗千佳さんが、先日ツイッターで、「人生のうちでもう一度だけでも、自分で満足できるような本を書いてみたい」旨をつぶやいており、もう一度ということはかつて書いた絶対の自信作があるということであり、その作品が本書『漂流するソニーのDNA プレイステーションで世界と戦った男たち』ということだったので、Kindle版を購入して読んでみたわけである。内容をアマゾンから拝借すると、

 再起をはかるソニーの新社長に就任した平井一夫の手腕が発揮されたのは、ソニーSCEにおけるプレーステーション事業であった。そのプレステ展開において、異能を天下に示した久夛良木健との協調、葛藤、相克を通し、ストリンガー体制で失われたといわれる「ソニーのDNA」が平井新社長のもとで復活できるのかどうかを、著者のみが知り得るインサイド情報をもとに解析する。ソニー再建の道標となる一冊。

 といった中味だ。読んでみたところ、さすがに渾身の自信作というだけあって、読み応えのある作品だった。この本の優れたところは、人間ドラマ(主に久夛良木健氏にスポットを充てている)、企業・ビジネスもの、テクノロジー論などの要素を折衷し、しかもデジタル技術にも疎い読者にも非常に分かりやすく、読んで楽しい物語として仕立てていることだろう。

 タイトルに「男たち」と銘打たれているだけあって、様々な人物が行き交う本書にあって、女性は一人も登場しない。ソニーって、バタくさいメーカーのようでありながら、こうした商品開発の現場では、案外日本的というか昭和的な面もあったのかなという印象を受けた。

 ところで、Kindle版を読んだ限りでは、本書には図版が一切登場しない。なので、主人公である久夛良木氏の顔も、最後まで分からず仕舞いである。電子書籍だから図版が省略されたのか、それとも最初からテキストオンリーの本なのか?



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 私のブログをどんな方が見てくれているのか分からず、どれだけ効果があるか謎ですが、一応広報にご協力ということで。

 来たる8月3日(月)~8月8日(土)、幕張メッセと神田外語大学(千葉市)において第9回ICCEES(国際中欧・東欧研究協議会)幕張世界大会が開かれます。ICCEESは世界的な学術会議ですが、たとえばビジネスマンの皆さまにもご関心のあるプログラムも用意されています。特別企画として「元首相サミット:ロシア、韓国、日本の元首相が中国台頭を論ずる(登壇予定:セルゲイ・ステパーシン、韓昇洲、福田康夫諸氏)」(8/3)、「変化する世界のユーラシア:東西関係のなかの北極海と極東」(8/5)、「制裁とビジネス」(8/7)といった企画もあります。ご興味のある方は、ぜひウェブサイトをチェックしてみてください。

 なお、私自身は、8月6日(木)のベラルーシのセッションで報告を行い、8日(土)のウクライナのセッションでコメンテーターを務める予定です。


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 ロシアものの書籍の発行を積極的に手掛け、とりわけ「ユーラシアブックレット」のシリーズで親しまれてきた東洋書店。とても残念なことだが、今般同社は事業を停止し、解散することになった由である。私自身、『歴史の狭間のベラルーシ』『ウクライナ・ベラルーシ・モルドバ経済図説』という2つのブックレットでお世話になっただけに、辛い気持ちだ。

 出版会社の栄枯盛衰はやむをえない面もあるが、聞くところによると、同社では現在、在庫を一斉廃棄しようとしており、今後バックオーダーには一切応じない方針とのことで、それはどうなのかな、と思ってしまう。確かに、在庫を置く倉庫代もばかにはならないのだろうが、各執筆者がそれぞれに全身全霊を尽くし作り上げた結晶を、単に廃棄物として捨てるとうのはどうか。出版会社としての、最後の矜持を見せてほしいと、個人的には思う。

 さて、本ブログでは今年の初めに、「日めくり紋章」のシリーズで、故池田正弘さんの著書『ロシア縦横無尽』のキャンペーンを敢行した(同書も東洋書店)。あれ、まだ終わったわけではなく、後日再開するつもりなんだけど、キャンペーンを張っても、東洋書店が在庫を一斉廃棄してしまったら、買おうにも買えなくなってしまう。今ならまだ流通在庫はあると思うから、もし興味のある方がいらっしゃったら、お早めに。



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 ちょっとこんな本を読んでみた。遠藤友則(著)『一流の逆境力 ACミラン・トレーナーが教える「考える」習慣 (SB新書) [Kindle版]』。内容をコピーさせていただくと、

 初めて明かされる!本田圭佑のレジリエンス
 「超」一流の選手はなにが違うのか?
 世界中から一流が集うセリエA。その中でもさらに選ばれたトップ集団である「ACミラン」。そんな超一流の選手たちは、失敗や挫折の「壁」をどうやって乗り越えているのだろうか。日本人でありながらミランのトップトレーナーとしてACミランの黄金期を支え、世界最高峰のクラブでシェフチェンコ、ガットゥーゾ、インザーギ・・などの超一流から絶大な信頼を集める著者が初めて明かす、壁を乗り越える考え方。
 本田選手は昨年不遇のシーズンからどうやって復調のきっかけをつかんだか?
 「やはり神様は平等だ・・・」 試練の中で漏らした言葉の真意とは?
 超一流は、サッカー選手もビジネスマンも同じ思考で、試練を乗り越えている。

 読んでみたところ、この本はサッカー本というよりは、典型的な自己啓発ものである。自分のサッカー界での体験を語った上で、「同じことはビジネスにも言えます」といった形で、ビジネスマンを中心とした一般読者に訴求しようとしている。まあ、ACミランでトレーナーをやったという稀有な日本人の体験談を活かし、一般人向けの自己啓発本に仕立てて一儲けしようというのは、編集側が考えたことだろうから、著者に罪はない。

 内容的には、まあまあ面白く、私個人にとっては値段相応の価値はあった。ただ、ここで語られている教訓を私自身のキャリアで実践できるかと考えると、答えは否に近い。ACミランのような世界から選りすぐりのエリートが集まってくるような職場と、世間一般の職場とは、まるでありようが違う。

 遠藤氏は、一時期ACミランに在籍したA.シェフチェンコにも信頼され、その関係で2006年のワールドカップでウクライナ代表のスタッフ入りもしたそうだ。そんな話は知らなかった。本書の中で、シェフチェンコにかかわる部分だけ、以下引用させてもらう。

 ミラン時代に2度の得点王に輝き、03-04年シーズンのバロンドール(ヨーロッパ年間最優秀選手)にも選出されたアンドリー・シェフチェンコも年間を通じて練習の前後に 「遠藤! ストレッチをやるぞー!」  といって、必ず私を呼びに来ました。  たかがストレッチですが、毎回の練習、試合の前後に5分間のストレッチを欠かさずにやり通した選手は、シェフチェンコの他、後にも先にもいませんでした。  誰でもできる簡単なストレッチ。いくらでも続きそうなものですが、きちんと続けられる選手はいません。それこそ、シェフチェンコが超一流である由縁なのかもしれません。



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 みずほ総合研究所編著『激震 原油安経済』(日本経済新聞出版社)が出版されました。研究者仲間の金野雄五さんが執筆に参加しておられます。その中身は、

 2014年半ばには110ドル近かった原油相場が、翌15 年3月には40ドル台前半までに暴落。この価格下落を招いた経済環境の変化とは何か、世界各地にどのような影響を及ぼしているのか、来たるべき原油安経済をいかに受け止めればよいのか――。原油安によって、日本はトリプルメリット(原油安、金融緩和、財政拡大)で底上げされ、産油国には増税に等しい富の流出をもたらし、新興国経済は明暗を分けることになる。その一方で、原油安にともなう物価の下落に対処すべく各国中央銀行は異例な金融緩和に踏み切って、異常なマイナス金利(金利水没)をもたらしているが、原油価格下落からの道筋も、世界の「金利水没」からの出口もまだ見つかってはいない。 本書は、原油安経済の構造と衝撃を解明するとともに、世界経済全体の病巣が予想以上に根深いことも明らかにするタイムリーな経済分析である。



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 休日なので、ゆるい話題でご容赦願いたい。この期に及んで、自分のロシア語はもうちょっと何とかならないものかと、悪あがきしたりしているのである。で、ちょこちょこ教材を買ったりしているのだが、先日こんなものを取り寄せた。藻利・バソヴァ・山内・吉見著『CD2枚付 耳が喜ぶロシア語 リスニング体得トレーニング』(三修社、2013年)というものである。「大好評リスニングシリーズのロシア語版。短文なら聴き取れるけど、ネイティブの会話にはついていけない…という方にお勧めです。ロシア理解が深まる100文を収録。ロシア語の台本と日本語対訳が確認できるので、多聴だけでなく精聴にも最適です。ネイティブの速度に慣れれば、ロシア語はもっと楽しくなります! 」といううたい文句の教材だ。

 感想を言わせていただければ、教材としての内容は結構気に入った。ちょっと前に、同じような主旨の別の教材を買った時に、テキストの内容が大学などの学校生活に偏っていて、閉口した。おそらく、作った人の視野が狭く、自分が属している大学の世界しか頭になかったのだろう。その点、今回の『CD2枚付 耳が喜ぶロシア語 リスニング体得トレーニング』は、テキストの分野が幅広く多彩で、例文も的確な選択がなされていると思う。また、以前買ったものは、ロシア人によるナレーションに、気持ち悪い小芝居のようなものが入っていて(悲しい場面で、実際に泣きそうな表情で話したり)、イラっと来ることが多かったが、今回のやつはロシア人女性によるナレーションも良い。まあ、今回のやつも朗読は独特で、萌え系というか、妙に甘ったるい語り口ではあるのだが、別に嫌いじゃない。

 しかし、残念ながら、この『耳が喜ぶロシア語』に合格点は与えられない。肝心のCDの音質が酷すぎるのだ。ガンガンに圧縮しまくったMP3の音で、聴いていてとても気持ちが悪い。せっかくCDなのに、なぜリニアPCMで録音しないのか。これでは、耳は喜ばず、看板に偽りありの商品だと指摘せざるをえない。まあおそらく、アレだろうな。たぶん、朗読を担当した女性がロシアに住んでいたりして、編集とナレーターとの間でメールとかでデータをやり取りする上で、圧縮して軽くする必要があったんだろうな。しかし、本体価格2,400円の本を作るのに、そんな手抜きでいいのだろうか。なぜ、リニアPCM録音して、ちょっと面倒臭いけど、それをディスクに焼いて送るとか、そういう手間をかけなかったのだろうか。内容が良いだけに、残念だった。



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 明石書店のエリア・スタディーズより、宇山智彦・ 藤本透子編著 『カザフスタンを知るための60章 』が発行されました。編集・執筆者の皆様、おめでとうございます。今日、現物が届いたので、早速読み始めたいと思います。



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 出たばかりのこんな本を取り寄せ、一気に読了した。まあ、ブックレットだから、64ページしかないけど。村井淳著『母なるヴォルガ ロシア史をたどる川旅 (ユーラシア・ブックレット198)』である。

 実は、この本には、半年くらい前から注目していたのだ。というのも、うちの月報の2015年2月号で、「ロシアの地域経済と沿ヴォルガ」という特集を組み、その際に書評コーナーで取り上げるヴォルガ絡みの本はないかと探してみたところ、出版前のこのブックレットの情報が目に止まったのである。しかし、実際に本が出るのはもう少し先になるとのことで、月報のヴォルガ特集には間に合わなかったという経緯があった。

 そんなわけで、ようやく入手できたブックレットを早速読んでみたわけだが、内容は、沿ヴォルガ地域を中心とした歴史エッセイと、ヴォルガ川クルーズの旅行談義の、折衷のような感じである。個人的に、「ヴォルガ川のクルーズというのは、どんなものなのだろうか?」という漠然とした関心は以前からあったのだが、それがこの本でだいぶクリアになった。ロシアの主要河川が、運河で連結されていて、船に乗ればあちこち行けるのだろうなと漠然とは思っていたが、実際の様子が具体的に理解できた。(トイレのくだりは、やや衝撃的であったが。)

 私は年に何度かロシアに行くものの、仕事ばかりだし、これからも実際にヴォルガの船旅をする機会は、たぶんないのではなかろうか。だから、この本で、良い疑似体験をさせてもらったと思っている。本体価格わずか800円のバーチャルトリップ、皆さんもどうぞ。



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20150405kotowaza

 こんな本を買って読んでみた。船木裕著『ロシア語ことわざ60選』。ネタ探しというか、ちょっとした思惑があって。

 しかし、この本は評価が分かれるだろうな。執筆・編集方針が、かなり独特だ。だいたい、1冊の単行本で、ことわざが60選って、少なくない?という疑問が湧く。それもそのはずで、1つのことわざにつき、数ページを費やして、語っていたりするのだ。ただ、その長短は、かなりまちまちで、1ページだけのものもある。そして、さらに微妙なのがその内容で、1つのことわざにつき、ああでもない、こうでもないと、かなり多角的な考察を加えている。類似や派生の別のことわざを紹介したり、果ては日本語・英語はもちろん、フランス語・ドイツ語のことわざまで取り上げたり。ことわざから脱線して、人生訓のようなことを語り出したり、ソ連・ロシア談義に走ったりと、とにかく自由すぎるのだ。まあ、確かに読み物として面白い部分もあるし、ロシアの1つのことわざにつき解釈や用法が分かれている問題を掘り下げたりしているところはきわめて興味深い。しかし、まあ、これはちょっと奔放すぎるよなあ。

ロシア語ことわざ60選
船木 裕
東洋書店
2010-09


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20150313shiokawa

 塩川伸明先生より、近著『ナショナリズムの受け止め方』のご紹介をいただきました。内容は、

 ナショナリズムという難問に挑む――
 グローバリズムの強まりと軌を一にしてナショナリズムの波が世界をおおう今日、いかにして他者・異文化理解は可能なのか。リベラルナショナリズム、オリエンタリズム論、ポストコロニアル論、人類学、社会学、社会言語学等の理論的考察、そして旧ソ連・ユーラシア世界の歴史と現状の実証的研究をつうじ、あらためて言語・民族・エスニシティ・ネイションを考察する。

 というもの。定価=本体 2,800円+税。2015年3月15日/四六判並製/336頁/ISBN978-4-88303-380-5 後日拝読のうえ、余力があったら感想なども書いてみたい。


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 最近、個人的に考えていることがある。これだけこじれた、欧米とロシアの関係。両者の関係が修復に向かうとしたら、「共通の敵」が現れた時ではないか。そして、今日の世界政治を見渡して、その共通の敵になりうるのは、いわゆる「イスラーム国(ISIS)」しかないのではないか。

 もちろん、米オバマ政権が現在のところプーチン・ロシアをISISと同列視していることや、ロシアが「有志連合」による空爆に反対していることも、知っているつもりである。しかし、ISISの問題は、いわゆる「文明の衝突」ではあるまい。「文明と非文明の衝突」である。そのような構図の中で、よもやロシアが非文明の側に属すなどということは、あろうはずがない。ISISが支配を目指すと称している仮想版図には、ロシアの北カフカス地域なども含まれているのである。ISISを封じ込めるという根本的なところでは、欧米とロシアの利益は一致するはずであり、今後両者が否応なしに協調を迫られるシナリオもありうるのではないか。

 こうした関心から、最新刊『イスラーム国の衝撃』を紐解き、ISIS問題の背景と本質を学ぶとともに、今後の展望へのヒントを探ろうと試みた次第だ。まあ、紐解いたと言っても、実際にはKindle版の電子書籍で読んだので、ダウンロードしてタップしたと言った方が正確だが。

 実際に読んでみたところ、大変優れた入門書だと感じた。正直言えば、私はISIS/ISILが何の略語かも知らないほど、まったく予備知識がなかったので、読むことすべてが新しく、とても勉強になった。

 たとえば、先日ISISがアッシリア帝国時代の文化遺産を破壊する模様の映像が世界に衝撃を与えたが、本書『イスラーム国の衝撃』を読み終えた今となっては、私の受け止め方は以前とは違っている。「なるほど、ISISはこういう理屈と狙いで、こうした行為に出ているのだな」ということが、よく理解できるようになった。もちろん、容認するという意味ではないが。

 著者によれば、ISISの伸張には、大きく見て2つの異なる要因が作用している。1つは思想的要因であり、もう一つは政治的要因である。思想的要因とは、ジハード主義の思想と運動の拡大・発展の結果、世界規模のグローバル・ジハードの運動が成立したことである。グローバル化や情報通信革命に適合した組織論の展開の結果として、近年にグローバル・ジハードは変貌を遂げていた。ISISも、それを背景に生まれてきた。一方、政治的要因とは、「アラブの春」という未曾有の地域的な政治変動を背景に、各国で中央政府が揺らぎ、地方統治の弛緩が進んだことである。とくにイラクやシリアで、それは著しい。グローバル・ジハードの進化と拡大が、中東とアラブ世界のリージョナルな社会・政治的動揺と結びつき、イラクとシリアの辺境地域というローカルな場に収斂したことによって、ISISの伸張は現実のものとなったというのが、著者の提示している基本構図である。

 さて、上記した「ISIS問題が欧米とロシアの関係修復の媒介となりうるか?」という関心に立ち返るならば、本書を読了し、「そう単純に事は運ばないだろうな」という認識に傾いた。ISISがこのまま支配領域をさらに拡大していくとは考えにくいと本書では指摘されており、その意味で脅威は限定的だからである。しかし、仮にISISが消滅したとしても、「ISIS的なもの」が形を変えて、今後長らく国際社会の攪乱要因に留まることは間違いなさそうだ。



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 ベトナム旅行の前後から読み始めた新書を、読了。いや、正確に言えば読了はしてないな。古代から読み始めて、なかなか近現代にたどり着かないものだから、途中を省略して、最後の20世紀の章まで飛んで読み終えたので。しかし、当てがはずれたのは、この本、古代とかは結構詳しいのに、戦後史はほんの概略的になぞっているにすぎない。ベトナムと言えば、誰もがベトナム戦争を第一に連想すると思うが、この本ではあろうことか、「ベトナムは東西冷戦構造のなかで対フランス独立戦争、ついで米国との抗米救国戦争を戦わざるをえなくなる」という記述だけで終わりであり、ベトナム戦争自体についての「物語」は事実上語られていない。「あとがき」によると、「本書は歴史として語ることのできる時代まで、フランス植民地時代におけるホ・チ・ミンの物語のところでとめた。ホ・チ・ミン時代からはじまるヴェトナム現代史については、・・・拙著『ヴェトナム戦争全史』(岩波書店)を参考のひとつとしていただければ幸いである」とのことである。私はこの本をKindle版で読んだので、現代史が見事にスルーされているとは、買う前には分からなかった。知っていれば、買ったかどうか微妙であり、このあたりが手に取れない電子書籍の難しさかもしれない。あと、この本、「物語・歴史」のシリーズのわりには、図版がほとんど載録されていない点が気になったが、もしかしたら紙の書籍には載っていて、電子版では省略されたりしているのだろうか。。。とはいえ、学んだ点も多く、とりわけ、

 ドイモイは 、ヴェトナム共産党が長い戦争の間に陥っていた官僚主義に対する大胆な挑戦だった 。しかも 、かねてから党書記長として指導してきたレ ・ズアンがホ ・チ ・ミン死去の直後から突然 「南北社会主義化路線 」を打ち出し 、ソ連に一方的に接近して 、中ソ対立のなかでバランスをとってきたホ ・チ ・ミン路線を否定したことからはじまったヴェトナム共産党の硬直した体質を全面的に改革しようという 、ホ ・チ ・ミンへの回帰だった 。したがって 、ドイモイ路線の発展と定着には 、ホ ・チ ・ミンの考え方を強調しなければならなかったのである。

 といったくだりは、きわめて興味深いものだった(ちなみに、上の引用はKindleからコピーしたわけで、電子書籍にも利点はあるな)。つまり、ドイモイというのは単なる近代化・合理化一辺倒の改革ではなく、ベトナムの伝統的な村落共同体への回帰、その象徴としてのホ・チ・ミン崇拝、といった側面もあるということのようだ。アジアの社会主義というのは、なかなか面白いものである。



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 ベトナム旅行とは何の関係もないけれど、こんな本を読了した。本間ひろむ著『ユダヤ人とクラシック音楽』(光文社新書、2014年)。私は、ウクライナ・ベラルーシ地域出身のユダヤ人がアメリカのポピュラーミュージックに果たした役割のことを趣味で調べているのだけれど、実際には情報が乏しく、正確な出身地すらわからないことも多い。本書は、旧ソ連出身者に限らないとはいえ、ユダヤ人音楽家のクラッシック界での役割について概説していて、とても参考になった。本書128頁によれば、貧しいユダヤ人家庭では音楽的才能を示す子供がいると一族郎党でお金をかき集め、楽器を買い与え、しかるべき教育を受けさせた。果たして有名な音楽家になった場合、経済的な分け前を一族郎党でシェアしたという。140頁に出ている、移住の際の相互援助の話も興味深い。また、30頁以降に記されている、ユダヤ人の伝統的な民衆音楽であるクレズマーが、バイオリンの名手を輩出する土壌になった旨の指摘も、勉強になった。

 まあ、クラッシックとポピュラー音楽ではずいぶん事情が違って、上述のようなエリート教育を受けられなかった有象無象が、しかし民族の血に溢れる音楽的才能を開花させ、大衆音楽界に君臨したといったところか。ベラルーシにはクラッシック音楽のちゃんとした学派はなかったので、クラッシック音楽家は当地からは生まれず、逆にポピュラー音楽界に人材を送り込んだ、といったところかな。


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 前のエントリーで、『ロシアNIS調査月報』2015年1月号の表紙を紹介した。この表紙に使用している写真は私が撮影したもので、ウクライナの製鉄所「エヴラズ・ペトロウシキー記念ドニプロペトロウシク冶金工場」の雄姿(?)である。それにしても、何と長い企業名だろうか。「エヴラズ」は所属グループを、「ペトロウシキー」は人物名を(ソ連初期にウクライナで活躍したH.ペトロウシキーという政治家にちなむ)、「ドニプロペトロウシク」は所在地を示している。何年か前に、ウクライナ南東部の同市に現地調査に出かけた際に、工業地帯を散策し、その際に撮影したものである。工場は見るからに老朽化し、煙突からは妖しいオレンジ色の煙が排出されていた。

 ところで、この工場の写真、私にはオリジナルのイメージがある。学生時代、当時はまだソ連だったが、デービッド・シプラーという『ニューヨーク・タイムズ』特派員が書いた『ロシア ―崩れた偶像・厳粛な夢』という上下2巻の単行本があり、私は同書を熱心に読み込んだだけでなく、その表紙が上下巻とも、とても好きだった。個人的に、ソ連という国のイメージは、かなりその表紙によって決定付けられた気がするのだ。上に掲げたのが上巻で、ネットから拾ってきた写真なので帯で隠れてしまっているが、教会堂を背景に、吹雪が舞う中、バケツみないなものを持った市民が重そうに歩を進めているという図柄。そして、下巻が下に見るようなもので、ちょうど今回月報に使ったペトロウシキー工場と同じようなテイストの、煙を吐き出す工場の写真だったのである。そんなわけで、月報1月号の表紙、ぱっとしない景色だと思われるかもしれないが、私にとってはたまらなく郷愁をかき立てられる風景なのである。

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 個人的にウクライナ語習得中なので、今回ロシアに出張したら書店に立ち寄って、「ロシア語・ウクライナ語対応会話集」みたいな本を買いたいと思っていた。しかし、実際にモスクワを代表する書店「ドーム・クニーギ」の売り場を訪れてみると、かなり品揃えが乏しい。ウクライナ語関係の書籍は、ほんの4~5種類しかないような感じで、CD付きの良い感じのものは全然なかった。結局、ごく簡略な「ロシア語・ウクライナ語会話集」を入手。子供だましのような代物だが、ただ良かったのは、ウクライナ語以外の他の言語の会話集も同じシリーズで出ていることだ。そこで、私の関心国であるウクライナ・ベラルーシ・モルドバ・カザフスタンの4カ国語を揃えてみた次第。ルーマニア語ではなくモルドバ語と銘打っているのは、珍しい気がする。あと、カザフのやつだけ、なぜか双方向になっている。まあ、こうやって並べて悦に入っているだけで、実際に勉強しようと思うのはウクライナ語だけだが。近くウクライナに出張する機会があるだろうから、ウクライナの書店でも探してみるか。


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 佐々木俊尚『自分でつくるセーフティネット: 生存戦略としてのIT入門 [Kindle版]』を読了。Kindleのタイムセールスで安かったから、買って読んでみた。最近、Kindleの電子書籍だけで出る本というのがあり、これも雰囲気からしてそうかなと思ったのだが、実際には紙の本としても大和書房から出ているようだ。本の内容は、

 ITジャーナリスト・佐々木俊尚氏による、まさかのビジネス戦略! 国と会社が守ってくれる時代は、もう終わり。 「ビジネス強者」になれない私たちが生き残るには……。 リストラされても、お金がなくても、会社がなくなっても ゆる~いつながりがあれば、誰かが助けてくれる! もはや、お金や会社の名前、肩書きだけでは、セーフティネットにはならない。 これからは「善い人」が信頼されるネット人格の時代です。 SNSでゆる~くつながる「最強の生存戦略」とは?

 といったところだ。まあ、個人的に、この主張自体は、なるほどそうかなとは思った。しかし、佐々木氏の本はたいていいつもそうだが、枝葉の部分というか、エピソード的な話が多すぎ、それが読んで楽しくもあるのだが、やや過剰なような。本書にしても、言ってしまえば、結局は「フェイスブックやりましょう」という結論であり、それだけのために1冊の本が必要なのかなという疑問も感じた。まあ、こんな風に1ネタで1冊書いてしまうというところが、プロの書き手たる所以なのだろうが。



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20141105eurasia

 こんなん出ました。ユーラシア研究所発行『ロシア・ユーラシアの経済と社会』(2014年10月号、No.986)「《特集》ウクライナ危機の分析視角」。私は、「ウクライナ経済の再生・転換は可能か ―天然ガス消費問題を中心に―」と題するレポートを書いています。ただ、本稿は4月にやったシンポジウムの報告内容をベースにしたものなので、今となっては少々古い分析というきらいも、なきにしもあらず。他にも、石郷岡建「ウクライナ危機とは、何だったのか?:プーチン大統領の思惑とロシアの行方―疑問と考察」、安木新一郎「ウクライナ紛争下のロシア・ルーブル為替相場」、蓮見雄「EU・ウクライナ連合協定の神話 ―事実を示す」といった論考があるので、そちらには期待してください。


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