ロシア新内閣に関し、『コメルサント』紙のこちらの論評を抄訳して紹介する。

 ロシアの内閣で「副首相」というポストは常に政治的・経済的利益の「結晶化の中心」であり、それゆえに副首相の配置は関心を集める。メドヴェージェフ新内閣が、プーチン前内閣と変わった最大の点は、I.シュヴァロフ氏という単一の第一副首相を設け、垂直体制を厳格化したことだ。プーチン内閣ではシュヴァロフとV.ズプコフ氏の2人の第一副首相がいた。このような単一の第一副首相の体制は、2004年に成立したM.フラトコフ内閣でA.ジューコフが第一副首相を務めて以来である。

 シュヴァロフの第一副首相留任が意味するのは、同氏が2008~2012年に政府で担当してきたプロジェクト、すなわち投資環境の改善、民営化、規制緩和、ユーラシア連合、インフラ建設、極東開発などが継続されるということである。今回の内閣でもシュヴァロフの管轄分野はかなり広く、彼は首相が他の問題に忙殺されている時に首相の代役を上手くこなすことができるということでメドヴェージェフやプーチンにとってありがたい存在で、その実務能力ゆえに今年初めのプライベートのスキャンダルも不問に付されたということである。

 実際のところは、新内閣の構造は、前内閣のそれよりも摩擦をはらんだものである。これまで内閣の非公式な第一人者の役割をI.セーチン副首相が自任してきたが、新内閣ではセーチンとズプコフの権限をA.ドヴォルコヴィチが一手に掌握する。彼の管轄範囲は、経済のリアルセクター全体とされている。ドヴォルコヴィチがこれまで大統領補佐官として担当していた分野が広範で、税制から年金までほぼ無限だったことを考えれば、新内閣で副首相たちが対立する要因には事欠かないだろう。ドヴォルコヴィチはメドヴェージェフの補佐官としてリベラルな経済理念を標榜してきたわけだが、今後はたとえば経済の国家セクターに対して外部の評論家としてではなく当事者としてかかわらなければならないわけで、どこまでリベラルな価値観を保持できるかが見物だ。このような勢力図においては、前内閣から留任するD.ロゴジン、A.フロポニン、D.コザクといった副首相の立場の方が有利であろう。留任した副首相たちが現状維持を図ればいいのに対し、新任の社会問題担当のO.ゴロジェツ副首相などは、これから全体の中に溶け込まなければならないからだ。

 V.スルコフ氏は、組閣にあたって、イノベーション・科学担当副首相という役割を保持するとともに、副首相・官房長官という地位も占めて成功を収めたが、プーチン前内閣から留任した副首相たちは組織面での独立性に慣れているので、スルコフ官房長官の登場も火種になる可能性がある。

 外見的には、政府機構改革は小幅であり、極東開発省が新設されたことと、保健省が2つの省に分割された程度である。しかし、見逃してならないのは、今回のプーチンの大統領令により、当時のG.グレフ経済相とD.コザク副首相が起草した2000~2004年の行政機構改革の諸原則が最終的に放棄されたということである。すなわち、省の次官が連邦庁の長官を兼務することが可能になり、その結果、執行権力における法的機能と監督的機能の分離という原則が放棄されてしまったことである。大統領令には、連邦の省は連邦局や庁の長官に対し、執行が義務付けられる指令を発することができ、傘下の局・庁の決定を停止することができると明記されている。残されたのは、1つの省庁の枠内で1人のトップに単独責任制を戻すという1999年の形式的な措置だけである。

 このほかにも、いくつか省庁の機構改革が見られる。経済省は統計局に対する管轄を失った。地域発展省付属の建設・住宅公営事業庁が新設された。スポーツ省は大幅な改革がなされた。そのほかにも、運輸省では航空など部門別委員会の改革が実施されるという噂もある。

 さらに象徴的な変化は、V.イシャエフが極東開発相および極東連邦管区大統領全権代表を兼務することになり、初めて大統領府の機能と連邦政府の機能が融合することになったことである。また、大統領令第7項によれば、連邦構成体に移管された連邦の機能の実施を省が管理することになっており、これは検討されている極東開発公社以上の役割である。これまで極東における国家プログラムおよび連邦特定プログラムは、策定の段階では経済発展省の、拠出の段階では財務省の専権事項とされてきたわけだが、今後は極東発展省がその機能を並行して果たすか、または奪い取ることになる。さらに、APEC関連の建設事業など地域発展省も極東でのプロジェクトに関与しているし、極東にとって重要な連邦漁業庁が農業省の傘下に移管されるという動きもある。その他の連邦管区、その他の分野でも機能の重複が生じる可能性がある。

 このように、政府機構の改革は一見目立たないが、本質にかかわる変化が生じている。今回の政府の体制が数年間も持ちこたえるとは思われず、今後さらなる改善が施されていくだろう。

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