こちらのサイトで、政治工学センターのT.スタノヴァヤ分析部長が、大統領の座から退き首相に就任する予定のメドヴェージェフ氏の立場が、弱体化しつつあることを論じているので、その骨子をまとめておく。

 K.ザトゥーリン氏はMK紙に寄稿した文章でメドヴェージェフを明確に批判しており、これはプーチン支持派のエリートのうち、とくに反メドヴェージェフ的な部分のムードを反映したものである。こうした立場がエリートの間でどれだけ広がっているのかは不明だが、メドヴェージェフのチームは細分化・局所化を余儀なくされ、国家システムの特定の部門(司法など)にしか根を下ろしておらず、全体の体系をなしていない。しかも、メドヴェージェフ派の人間は皆、プーチン派の上司を有しており、それが1人にとどまらない場合もある。プーチンの取り巻きの多くはザトゥーリンと価値観を同じくしているが、ザトゥーリンは現在要職に就いていないので好きなことを言えるのであろう。

 一方、やはりMK紙に載ったもう一つの論考、評論家のA.ミンキン氏のそれ(注:こちらで読むことができる)は、プーチン支持派だけでなく、多くのリベラル派がメドヴェージェフに対して抱く反感を一まとめにしたものになっている。メドヴェージェフは威勢の良い言葉を連発したが、成果として何が残ったかというと、皆無だ。2008~2012年は、ロシア史における空白期となってしまった。メドヴェージェフは最初から、プーチンの聞き分けの良い代理人にすぎなかった。汚職対策、教育、医療はすべて失敗し、頭脳流出は増え、アル中、麻薬、犯罪は増大したと、ミンキンは批判している。

 象徴的なのは、穏健派のリベラルはA.クドリンの周りに結集しようとしていること。クドリンは、リベラルとだけでなく、プーチンともうまくやれる。かくして、リベラル派たちは、メドヴェージェフは弱く、自立していない人物と見て、ますます彼から離れようとしている。

 ただ、当のメドヴェージェフは、活発な政治活動を続けている。政府に対し、民営化を加速し、国営銀行における国家持ち株を支配株未満にするように指示を出したりしている。注目されるのは、リベラル派でズベルバンク総裁のG.グレフが、現在のズベルバンク投資家の利益を憂慮する立場から、メドヴェージェフの方針を慎重ながらも批判していることである。投資家にとってみれば、国が民営化の政策を目まぐるしく変更することの方が、民営化を放棄することよりも、よりリスクが大きく見える。そうしたなか、『ヴェードモスチ』紙によれば、4月3日にプーチン主宰で予定されていた民営化計画に関する会議が延期され、5月7日の大統領就任式までは開かれなくなったということである。他方、メドヴェージェフの補佐官のA.ドヴォルコヴィチは、国営企業の民営化は大統領の指示どおり進めるのであり、我々は一部の閣僚の立場には興味がないと発言した。これは、国営大企業は戦略的に重要であるとしてその民営化に反対しているI.セーチン副首相を念頭に置いた発言だ。メドヴェージェフは首相就任後に新政府で民営化を加速する意向のようで、これが彼にとっての政治的優先課題であり続けると考えられる。

 メドヴェージェフが主導しているもう一つの案件が、本質的に新版の民法の策定である。現状の大陸法をベースとした民法コンセプトを保持しようとする勢力と、アングロサクソン法の要素を多く取り入れそれを刷新しようとする勢力がせめぎ合う中で、作業が進められている。このほかメドヴェージェフは、汚職対策を重視する姿勢を示し、また自分の大統領在任中の主要プロジェクトの一つである(しかし多くのマスコミは懐疑的に見ている)イノベーションセンター「スコルコヴォ」でのG8サミットの開催を提案したりしている。

 しかし、メドヴェージェフの努力にもかかわらず、彼の周囲には徐々に、不都合な情報的環境、組織・政治的状況が形成されつつある。端的に言って、彼には直接の側近を除いて、仲間がもう残っていない。直接の側近とは、A.ドヴォルコヴィチ、M.アブィゾフ、Ye.ユリエフであり、また関係が近いA.コノヴァロフ法相、大統領府のK.チュイチェンコ統制局長などである。政治的資源に関して言えば、彼には議会に対しても、党に対しても、マスコミに対しても統制力がない。彼の主導する公共テレビ計画には疑問の声が寄せられているが、メドヴェージェフはイデオロギー的に自らに近いメディアを形成しようとしているのかもしれない。

 こうした状況では、これから成立する権力システムにおいて、メドヴェージェフの政治的・組織的ありようは、プーチンとの関係、自らを首相の座に約束してくれたプーチンの恩義にどれだけ報いるかに、ほぼ100%かかっている。現在、プーチンの周辺の一部がメドヴェージェフに敵意を示しているのは、あるいは、プーチンも承知の上でメドヴェージェフに試練を課しており、メドヴェージェフがチームプレーに徹するように強いているのかもしれない。プーチンは現時点ではメドヴェージェフを首相に指名する方針を変えるつもりはないが、それをメドヴェージェフの野心を制限するのに利用しようと考えている。同時に、現在、これから成立する権力システムの人事だけでなく、政治・経済路線をめぐる闘争も激化しているが、その帰趨もメドヴェージェフよりも、プーチンにかかっている。厳格な国家主義者たちと、穏健なリベラル派たちが、今後のプーチンの路線に対して影響を行使しようとしている。ゆえにその路線は、保守主義一色ということもなければ、ましてやリベラル一色ということもないと思われる。

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