W杯決勝戦のプッシー・ライオット乱入事件、最初は良く事情が分からず、「なんか決勝に水を差す残念な出来事が起きちゃったな」くらいに感じただけだったが、事実関係が判明するにつれ、また時間が経過するにつれ、自分の中のモヤモヤがどんどん大きくなってきている。

 試合の翌日、プッシー・ライオットの仕業だということを知った時に、私が思ったのは、「今大会でロシアは、テロリストもフーリガンも封じ込めたのに、最後の最後に、あの連中に足元をすくわれちゃったな」といったことだった。

 しかし、そのあと、やや考えが変わってきた。プッシー・ライオットの今回の行為は、本質的にテロ行為なのではないかと思えてきた。むろん、テロというのは基本的に暴力で他人を殺傷することを指すのは承知している。しかし、たとえば「サイバーテロ」なんて言葉があるとおり、他人の価値を破壊的に毀損しようとする行為は、広い意味でテロと言えるはずである。プッシー・ライオットの連中が笑いながらグランドを走り回っている姿を改めて見て、これはテロに他ならないとの思いを強くした。自らの主義主張を唱えるために、ピッチ上で戦っている選手たちの思いも、全世界で固唾を飲んで見入っているサッカーファンの気持ちも、一切お構いなしと言うのであれば、程度の差こそあれ、その思考様式はテロリストのそれとまったく同じである。暴力に訴えていなくても、笑っていても、テロはテロであり、いわば「ゆるテロ」である。

 ロシアのニュースサイトなどを見ても、今回の事件に関する突っ込んだ分析や論評はまだそれほど見当たらない。そうした中、多少踏み込んだ論評を示していたのが、こちらの記事である。D.コレゼフ(コリョーゼフ? コレジョーフ?)という論者の個人的意見とされているが、今回のプッシー・ライオットの行為は従来と比べてそれほど過激ではなく、ロシアもプーチンも侮辱する内容ではなく、誰も傷付けないで世界に向けて自分たちの主張を伝える絶妙なやり方であった、これによりロシア国家は穏便化・人道化していくだろうなどと論じており、個人的にはきわめてナイーブな見方と感じる。

 ちなみに、こちらの記事では、プッシー・ライオットの連中がいかにして事を成し遂げたかということが書かれている。これによれば、彼らは1週間ほどかけて今回の行為を準備した、他人のファンIDを利用して会場に入った、トイレで持参した警察の制服に着替え、それを着てなるべくピッチの近くまで近付く手はずだった、などと伝えている。

 それにしても、腑に落ちないのは、ガチ中のガチであるロシアの情報機関が、プッシー・ライオットの動きを察知していないなどということがありえるのか?ということだ。これまでもスキャンダラスな行為を続けてきたプッシー・ライオットが、W杯に何かしでかすことは当然考えられ、それこそテロリスト予備軍並みにマークされていたと考えるのが普通だろう。他人のファンIDを使ってスタジアムに忍び込んだくらいで、当局の監視の目を逃れられるものだろうか? もしかしたら、当局はプッシー・ライオットの動きは知った上で、泳がせていたのではないかという疑問を抱きたくなる。連中があの舞台で騒ぎを起こせば、彼らを弾圧することをロシア国内および世界向けに正当化できる。。。むろん、今のところ何の証拠もないが、そんな風に勘繰りたくなるのも、モヤモヤが募る一因である。


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