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 引き続き、ウクライナ鉄鋼業に関連した情報の整理。2016年10月に出たこちらの記事が、ウクライナ鉄鋼業では危機にもかかわらず意外に投資意欲が旺盛だということを伝えているので、記事の要旨を以下整理しておく。

 2016年8月末にマリウポリを訪問したポロシェンコ大統領は、現在、鉱山・冶金部門で実施されている投資により、輸出増や歳入増が可能になると発言した。業界団体のウクルメタルルグプロムによれば、同団体に加入する製鉄所の設備投資は、2010年45億グリブナ、2015年83億グリブナ、2016年上半期26億グリブナと推移している。また、生産1t当たりのドル換算の投資額を見ると、2010年17.4ドル、2015年20.4ドル、2016年上半期8.8ドルとなっている。

 市況は引き続き厳しいものの、各社は新技術の導入、以前に着手した生産性向上のための投資プロジェクトを継続している。中でも野心的な投資計画を表明しているのはアルセロールミタル・クリヴィーリフで、2020年までに12億ドルを投下して近代化を実施するとしている。2015年に同社は51.7億グリブナ(約2.4億ドル)の設備投資を行った。

 メトインヴェストは、債務リスケとの絡みで、中期的な投資計画を表明するようなことはしていないが、2015年には2.9億ドルの、2016年第1四半期には0.5億ドルの設備投資を行ったということである。同社傘下の工場では、2.2億ドルを要したイリチ記念工場の焼結工場の大規模な近代化が完成段階にある。アゾフスターリの石炭粉注入設備も完成に向かっている。エナキエヴェ工場では2016年初頭に同様の工事が完了した(総工費1.2億ドル)。これらは環境対策の観点から重要な作業である。2016年9月にはイリチ記念工場に連続鋳造設備を導入する契約が結ばれ(総工費1.5億ドル)、これにより粗鋼・鋼材の生産能力が倍増し、従来平炉で生産されていた粗鋼に比べ品質が向上するとともに、環境面でも改善が期待できる。メトインヴェストがその他の投資家と対等出資で経営しているザポリジスターリでは、2015年に13億グリブナを投資し、現在は第3高炉の大規模改修の準備を進めている(15億グリブナを投資する予定)。ザポリジスターリでは、鉄鋼業が資本集約的でエネルギー多消費型であることにかんがみ、まさに省エネに重点を置いていくとしている。ザポリジスターリでは2016年上半期に生産を拡大しつつも天然ガス消費の15%削減に成功した。メトインヴェストでは、環境対策プロジェクトに加え、コスト削減プロジェクトも推進しており、エナキエヴェの石炭粉注入設備稼働、イリチの第4高炉の改修、アゾフスターリの第4高炉の近代化などはまさにその目的である。アゾフスターリのプロジェクトについては、ポロシェンコ大統領がマリウポリ訪問時に、ウクライナ最良の投資プロジェクトの一つと評したほどだ。

 ロシア資本のエヴラズ・ウクライナでは、2015~2016年に5億グリブナ以上の設備投資を行う。特に重要なものは、生産増強、省エネのプロジェクトである。環境対策の大規模プロジェクトもあり、特にドニプロ冶金工場では第1圧延設備で水循環システムが、転炉ではガス浄化システムが稼働する。

 どの企業でも、コスト削減を重視している。その最大の原因は、時には経済的合理性さえ省みない中国の輸出攻勢である。全世界で、自国市場を外国の鉄から守ろうとする保護措置の波が生じている。2016年だけで、EU、ユーラシア経済連合、カナダ、インド、台湾で、ウクライナ産の鋼材に対するアンチダンピング調査または関税導入が実施された。

 ただし、資金調達の困難ゆえに、各社は長期間を要するプロジェクトには慎重にならざるをえず、即効的な、明確な経済効果のあるプロジェクトを重視している。各社とも、投資は自己資金または株主の資金で実施しているということで、ゆえに大手の金融産業グループに属しているメーカーの方が資金調達面で有利である。アルセロールミタル・クリヴィーリフの近代化は、親会社のアルセロールミタルの資金で実施されており、すべてのプロジェクトについて投資効果が厳密にチェックされているという。多くの欧州諸国では年利3~5%程度で融資が受けられるが、ウクライナの銀行は25~30%もの金利を要求する。

 つまり、ウクライナの鉄鋼メーカーが新たな融資を獲得することは、事実上不可能ということである。したがって、より本格的な設備投資は、状況が改善するまで先送りせざるをえない。たとえば、ザポリジスターリでは平炉を全面廃棄して転炉に完全移行したい意向だが、費用は13億ドルを超え、現状ではその実施は困難である。同社はすでに同プロジェクトに自己資金3億グリブナをつぎ込んでいるが、プロジェクトを完遂するためにはどうしても外部資金が必要だという。

 ウクライナ独立後、こうしたプロジェクトの実例は多くない。ドンバス工業連合(ISD)傘下のアルチェウシク冶金コンビナートは、平炉から転炉に移行した。メトインヴェストでは、2015年にイリチ工場の平炉をすべて停止し、転炉への転換を図った。インテルパイプでは、インテルパイプ・スターリが電炉を稼働させ、ドニプロ下流管圧延工場の平炉を置き換えた。アルチェウシク冶金コンビナートとエヴラズ・ドネツィク冶金工場では、条件の良い融資を獲得できないがゆえに、連鋳への移行を実現できないでおり、同様にドネツィクスターリも平炉から電炉への転換を果たせていない。


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