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 以前もタイトルだけご紹介したが、このほど読了したので、改めて取り上げてみたい。安達祐子著『現代ロシア経済 ―資源・国家・企業統治』(名古屋大学出版会、2016年)である。

 Amazonの内容紹介をコピーさせていただくと、「ソ連解体からエリツィンを経てプーチン体制へ、未曾有の経済危機から新興国へと成長したロシア経済を、資源のみならず、独自のガバナンスの重要性に着目して包括的に叙述、移行経済におけるインフォーマルな国家・企業間関係の決定的意味を捉え、ロシア型資本主義の特質に迫る。」という内容である。なお、著者はこのテーマに関する博士論文をベースとした著作をすでに英語で上梓しており、本書はそれをアップデートしつつ日本語化したものということである。

 私の理解によれば、本書は現代ロシア経済を、コーポレート・ガバナンスを軸に解き明かしたものである。コーポレート・ガバナンスの一般論、旧ソ連の特殊条件についての考察、ロシアにおけるコーポレート・ガバナンスの整備と実態についての議論、そしてユーコス、シバール(ルサール)、ノリリスク・ニッケル、ガスプロム、ロスネフチ、ロステクを題材としたケーススタディが披露されている。

 本書は400ページを超える大著であり、このテーマについての著作としては本邦はもとより、おそらく世界的に見ても最も完成度の高いものの一つだろう。欧米、ロシア、日本の先行研究を網羅的に把握し、ロシアのコーポレート・ガバナンス問題について非常にバランスのとれた、深い考察がなされている。法整備、産業ごとの特性、企業行動、政治的力学、国際関係などに的確な目配りがなされており、理論や規範だけにとらわれないロシアのリアルが描かれていると感じた。

 本書の完成度を認めた上で、一つだけないものねだりをさせていただくとすれば、本書では先行研究のサーベイが完璧かつ網羅的すぎて、逆に「著者・本書独自の発見や主張が何なのか?」という部分が伝わりにくくなっている印象を受けた。ただし、私の理解する限り、本研究の独自性は確かに存在する。それは、ロシアにおけるコーポレート・ガバナンス違反は、必要悪という面があった、ということではないかと思う。つまり、旧ソ連の企業は単なる「生産単位」にとどまり、市場経済における主体としては不適格なものだったので、私有化の過程でそれを強引な手法を使ってでも最適化する必要が生じ、その再編過程でコーポレート・ガバナンス違反が横行したということが、本書では克明に描かれている。しかしながら、私の印象では、著者はコーポレート・ガバナンス違反が必要悪であったということを示唆するにとどまり、明確に主張として打ち出すことは自粛しているように見受けられた。その点を敢えて明確に主張した方が、本書の独自性が際立ち、学界での論争に繋がったのではないかと、個人的には少々惜しいような気がした。

 いずれにしても、ロシア経済と企業、コーポレート・ガバナンスの諸問題に関心を持つ者にとっては必読となる、きわめて高い水準の研究書である。

現代ロシア経済―資源・国家・企業統治―
安達 祐子
名古屋大学出版会
2016-02-08


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