51s1a+qe7AL

 夏休みに読んだ本の紹介。しばらく前から書店の店頭で目にして気になっていた、徳勝礼子『マイナス金利―ハイパー・インフレよりも怖い日本経済の末路』(東洋経済新報社)。その内容は、「邦銀と外銀との相対取引で発生した円のマイナス金利が、いまや短期国債市場にも波及している。そうした事態を引き起こす原因を探っていくと、空前の金融緩和と、それと表裏一体となった財政拡張に突き当たる。低い国債金利は市場が財政リスクを懸念していないからではなく、懸念しているからこそマイナス金利がある、というロジックが解明される。外資系証券でレラティブ・バリュー・アナリストを務める著者が、金融マーケットが発している日本経済への警告を読み解いた、異色の日本経済論」というもの。

 はっきり言って、かなり読み応えのある本であり、私もたぶん半分くらいしか理解できなかったと思う。著者は、なるべく分かりやすい例え話などを多用して、読者に伝えようと努力しているものの、肝心な部分では難しい話をたたみかけるような感じになり、個人的にすべてを消化することはできなかった。いやでも、日本経済の行く末を考える上では避けて通れない、必読書になると考える。以下では、特に重要と思われる部分だけ、引用してみる。

 ドル資金の調達にプレミアムが付くということは、逆にドル資金を既に持っている投資家から見れば、収益機会となる。何しろ、ドルを貸してあげれば、円は市場よりもかなり低い金利で借りられるからだ。しかし、ドルを貸すことによって円をマイナス0・2%で調達できれば、円の短期国債にマイナス0・05%で投資しても利ザヤが得られることになる。そのような投資家がマイナス金利で調達した円で円資産を実際に購入し始めることで、2014年9月のような円金利のマイナス化が目に見える形で発生してきた。これこそが元祖・円のマイナス金利だ。

 財政拡大のために信用リスクが高まっている国家に対して、通常なら市場はそれなりの金利を要求するだろう。しかし、国家が制度や規制を通じて国民が低金利でも国債に投資せざるを得ない状況を作ることで、人為的に低金利が維持されるように誘導することができる。これが金融抑圧だ。金利を市場で自由に決まる水準よりも低く「抑えつける」という意味で抑圧という強い言葉が使われている。

 中でも、タイトルに「ハイパー・インフレよりも怖い」とあるように、本書の中で著者が中心的なメッセージとして打ち出しているのは、次のような点である。

 そういう意味では、これまでいろいろな形で予想されていたドラマチックなハイパー・インフレや、国債暴落、日本国の破綻は起こらず、金融抑圧の究極の形態としてのマイナス金利が最終的に財政のつじつまを合わせていく、という可能性があるのではないか。

 もし暴落と破綻が起こってしまえば、その後には再生することもできる。しかし、マイナス金利によって徐々に国の借金が国民の資産によって少しずつ強制的に埋め合わされていく形になれば、衰弱死的な経済になっていくように思われる。そのような展開は、ある意味破綻よりも怖いとはいえないだろうか?

 ハイパー・インフレは確かに怖い。しかし、それが衰弱死よりもまだ希望を持てるとすれば、それが短期決戦で否応なく再生を強制することだ。太平洋戦争の後のハイパー・インフレは確かに途方もなく苦しく、筆者自身も自分がその場にいたら、乗り越えられるかどうか正直不安である。しかし、人的資源があれば経済を再建できる。ゼロからやり直せばプラスに持って行けるからだ。一方、国の債務のつじつまが合うまでマイナス金利が継続する社会で幼少期から青春までを過ごして育ったら、その人間はそこから経済を再建しようと思うガッツを持ち合わせるだろうか。



ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ