478e0bc8

 こちらのサイトで、アレクサンドル・グシチンという論者が、EUの対ベラルーシ制裁解除について論評しているので、抄訳しておく。

 2004年にEUが承認した最初の制裁リストは、ベラルーシの4人の政権幹部から成っていた。これは、1999~2000年の野党政治家の失踪に関与したとEU側が見なしていた4人であり、元内相のV.ナウモフ、元大統領府長官のV.シェイマン、元内相のYu.シヴァコフ、元内務省特殊部隊長のD.パヴリチェンコである。同年12月には議会選・国民投票を受け、選管議長のL.エルモシナと特務警察部長のYu.ポドベドが追加された。さらに、2006年4月には大統領選の過程で人権侵害に加担したとEU側が見る人物が加えられ、リストが37名にまで拡大された。EUはベラルーシ公務員の在EU資産を凍結し、またルカシェンコその人と多くの政府高官を制裁リストに加えた。2010年12月19日に不正選挙に抗議するデモ活動が弾圧されたことを受け、EUは130人以上のベラルーシ高官に対する制裁を導入した、という経緯である。それが、今回のEUの決定により、制裁リストに残ったのは、1999~2000年の野党政治家の失踪に関与したとされる4人だけになった。うち1人は、現在も大統領官房長を務めるシェイマンである。

 それでは、現時点で制裁が解除された理由は何か? まず何よりも、制裁がルカシェンコ政治体制にごくわずかな効果しか発揮できなかったことが挙げられる。西側では、ベラルーシの市民社会に働きかけようとしても効果は薄いという認識が優勢になり、体制内の幹部に欧州化を働きかけるという路線が選択されたわけだ。ベラルーシ野党にこれといったリーダーが見当たず、まったくルカシェンコに太刀打ちできていないことが、背景にある。内政路線の修正は生じておらず、ベラルーシの変化は制裁の効果というよりも、むしろベラルーシを取り巻く地域情勢の変化と、ベラルーシ経済モデルの危機の結果として生じている。

 制裁自体は、ベラルーシにわずかしか影響を及ぼせなかったばかりか、ベラルーシの政治体制を一人のリーダーの周りにより一層結束させた側面もあった。ベラルーシの実例は、制裁によってある国の政治路線を矯正することの難しさを改めて裏付け、特にベラルーシのようなロシアという国に経済的に密接に結び付いている国には効果が乏しいことを示している。

 むろん、制裁解除の原因の一つには、ミンスクがドンバス和平の交渉舞台となってから、ベラルーシのイメージが格段に向上したことも挙げられよう。もやはベラルーシをならず者国家として扱うことは不可能になった。ポイントは、ベラルーシが交渉の舞台を提供するに当たって、ウクライナ危機に対して中立的な立場をとり、独自の対応を見せたことである。

 重要な側面は、ベラルーシが経済支援を必要としていることである。ベラルーシ経済は窮状にあり、過去25年で構築されてきたモデルは対外環境の悪化により欠陥を露呈している。モスクワから真水を調達するのに苦心する中で、IMF融資の獲得は死活的に重要である。

 西側は制裁の解除により、新たなベラルーシ政策を打ち出しており、その特徴は選択性にある。EUの東方パートナーシップの枠内では相手国ごとのアプローチにメリハリがなく、それゆえにこの政策が行き詰っているわけだが、今やEUおよび個々のEU諸国の対ベラルーシ政策では新たな優先事項が設けられようとしている。西側は対ベラルーシ政策で新たなモデルの構築を模索しており、ルカシェンコがクリミアやウクライナ問題全体でより穏健な立場をとってくれることや、ベラルーシが経済支援を求めざるをえなくなることに依拠しようとしていることに、それは現れている。その新しいモデルにあっては、ルカシェンコは新たなチトーのように見なすべきであり、すなわちベラルーシをロシアと欧州の間の中立的なバッファー国家とするということを、欧米の一連の専門家が公言している。EUは、ベラルーシにおける民主主義の順守といったスローガンは二の次にして、実利的な利益を優先することを示したのである。

 制裁が解除されたと言っても、ベラルーシがロシアの軌道から逸れるとか、増してやベラルーシの政治エリートの中に強力な親西側ロビーが誕生するといったことは、考えられない。しかし、時が経つにつれ、長期的には、ベラルーシ経済のロシアへの依存度が低減していくことも考えられる。制裁が解除され、ベラルーシはIMFだけでなく、ロシアからも資金を調達しようと立ち回るだろう。他方、ロシアは今回のEUの決定に激しく反発するようなことはないだろう。というのも、欧米のロシアに対する制裁の影響を最小化できるかもしれないという間接的な可能性を見出すからである。


ブログランキングに参加しています
1日1回クリックをお願いします
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ