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 米『フォーリン・アフェアーズ』のサイトに、トルコは結局のところロシアの天然ガスに依存し続けることになるという趣旨の論考が出た。原典はこちらだが、閲覧には登録とログインが必要。参考までに、ロシアのこちらのニュースで要旨が伝えられている。以下、原典にもとづき要旨を抄訳しておく。

 ロシアは2014年12月にサウスストリームの中止と、新たなトルコストリーム・プロジェクトへの転換を表明した。ロシアにとっては、この転換はいくつかの理由から理に適っていた。まず、サウスストリームは非常に高くつき、規制の観点から錯綜していた。トルコへとダイレクトなパイプラインを結ぶ方が、より困難が少ない。しかも、トルコはすでに、ガスプロムにとって、ドイツに次いで2番目に大きい市場であり、今後10年間で大きく伸びる可能性がある欧州で唯一の市場でもある。そして、ロシアと国際社会の軋轢が高まる中で、トルコはロシアにとって魅力あるパートナーと写る。

 ロシアとトルコは、クリミア、アルメニア人の大量虐殺、シリアなどの問題をめぐって、立場を異にする。最近になって、ロシアがシリアへの介入を開始してから、トルコとの関係は悪化した。トルコのレジェップ・エルドアン大統領は、一連の重要なエネルギー・プロジェクトにつき、ロシアとの関係を見直す可能性があると警告した。ただし、こうした発言にもかかわらず、実際にトルコがロシアへのエネルギー依存を打破するのは、ほぼ不可能である。それゆえ、最近もエネルギー分野のトルコとロシアの協力は目立っている。ロシアはトルコが消費する天然ガスの3分の2を供給する。ロシアの国営企業「アトムストロイエクスポルト」によるトルコ初の原発建設プロジェクトは総額200億ドルで、ロシア側は建設だけでなく運営会社の支配株も保有することになっている。

 それに対し、トルコ側は、ロシアとの協力で何を得たのだろうか? トルコは、ロシアとの、またEUとの関係で、政治的なテコを得たように思われる。2006年のロシア・ウクライナのガス戦争後、EUは、トルコを、ロシア産以外のガスを欧州に運ぶ死活的なトランジット輸送路と公式に認識してきた。一方、ロシアもトルコのことを、ウクライナを迂回して欧州にガスを運ぶ輸送路の重要な中継点と位置付けてきた。こうしたことから、トルコは新たに手に入れたテコを使って、より低いガス価格を取り付けたり(トルコはガスの98%を輸入)、欧州・中東・カスピ海地域を結ぶエネルギー取引ハブとなる野望を実現しようとしたりするかもしれない。しかし、トルコのエネルギー分野の実情を見ると、実際に得ることができるのは、より地味なものに留まりそうだ。

 まず、トルコが以前から抱いている野心にもかかわらず、トルコはガスのハブとなりうる条件を何一つ備えていない。国内のガス行政がお粗末なこと、競争の欠如、国家補助金、国内ガスセクターへの中央集権的なコントロール、国内の輸送網に対するボタシュ社の独占などが、主たる障害となる。ボタシュは、ガス輸入の75%、国内販売の80%を押さえるだけでなく、ガス価格に15~20%の補助金を適用し、原価にもとづいた価格設定に反対している。このほかにも、トルコが自国産のガスを持たないこと、貯蔵設備が不足していること、LNGターミナルが2箇所しかないことなどが技術的なネックとなる。こうした条件が重なり、トルコは天然ガス市場を発展させることができない。

 トルコのエネルギーミックスにおいてロシア産のガスが過大であることから、多くの識者は、エネルギー安全保障やガス不足のリスクに対処するため、トルコはエネルギー資源が豊富な他の近隣諸国からのエネルギー輸入を増やすべきだと指摘してきた。実際、アゼルバイジャン、イラン、イラク、東地中海諸国を合計すれば、ロシアのガス埋蔵量よりも多いのだ。しかし、トルコの対ロシア・ガス依存は65%に及び、さらに拡大基調にある。国内消費も拡大しており、2014年に518億立米に到達、昨今の不況の中でも低下する気配は見せていない。

 トルコとアゼルバイジャンはすでに、アナトリア横断天然ガスパイプライン(TANAP)のプロジェクトを立ち上げ、トルコを横断してアゼルのガスを運ぶ計画である。TANAPはロシア以外のガス供給源を多角化し、またトルコに安いガスをもたらすと想定されたことから、歓迎する向きがあった。欧米が同プロジェクトを支援し、トルコの対ブリュッセルおよびアゼルバイジャンの交渉力を高めることから、トルコにとって戦略的な恩恵があると指摘された。

 しかし、大方のトルコの専門家は、TANAPはトルコにとって良い取引ではないと考えている。高い輸送量ゆえ、TANAPを通るガスはロシア産よりも割高になり、アドリア横断パイプライン(カスピ海のガスをギリシャ、アルバニア、アドリア海、イタリアを通って欧州に運ぶ予定のパイプライン)を通るアゼル産ガスよりもさらにコスト高になる。しかも、TANAPの第2ステージで充分な量のガスをどこから確保するのかが、まったく不透明である。

 トルコにとってイランは選択肢の一つだが、イランはまず国内工業化のために自国でガスを消費する必要があり、輸出余力は限られる。トルクメニスタンは、自国産のガスの一部をTANAPに回してもいいとしているが、中国との契約関係に縛られているので、実際には困難だ。そもそも、カスピ海海底にパイプラインを通すためには、カスピ海の国際的ステイタスの問題を解決する必要があるが、それは依然として未解決だ。ロシアはその交渉をブロックし、過去25年こうしたパイプラインの実現が阻まれてきた。近い将来、トルクメニスタンは、ロシアのパイプラインを通じてしか、欧州にアクセスできない。イスラエルのリヴァイアサン・ガス田も潜在的な供給源だが、政治的な理由によりトルコがこれを受け入れることはできない。

 ロシアは、ウクライナを迂回するとともに、南東欧における支配的な天然ガス・プレーヤーの地位に留まる決意を固めている。そこにおいて、トルコをアセットと見ている。ロシアは、TANAPの第2フェーズで供給源の選択肢が乏しくなることを見透かしており、自国の利害に沿った働きかけを試みるかもしれない。たとえば、トルクメニスタンのガスがTANAPに供給されないようにしたり、もしそれが上手く行かなければ、ロシア自身がガス供給に名乗り出たりするかもしれない。かくして、ロシア離れを促すはずのパイプラインが、商業ベースで成立するために、ロシア産ガスを必要とすることになる可能性もあるのだ。

 プーチンは、このような文脈でトルコストリームを2014年12月1日に提唱した。現在のところ拘束力のある契約は調印されていないが、計画されているトルコストリームは4本のラインから成り、それぞれが157.5億立米、合計で630億立米のキャパシティを持つ。サウスストリームとの最大の違いは、トルコストリームがギリシャ・トルコ国境までであることである。トルコストリームの最初のラインは2016年末までに建設されると見られる。

 トルコストリームの目的は、ウクライナ領を通じて140億立米のロシア産ガスをトルコに供給しているトランスバルカン・パイプラインの代替となることである。トランスバルカン・パイプラインは、増大するトルコの需要に対応できず、技術的問題もあり、政治的物議も醸していた。トルコストリームの第1ラインはトルコ市場にわずかなインパクトしか持たないとする論評が多いが、実際にはそうではない。トルコストリームの追加的な157.5億立米で、ガスプロムはすでに市場シェアを11.5億立米拡大し、また既存のブルーストリームの更新でも10億立米拡大している(注:この部分、読解に自身なし)。つまり、新パイプラインが単に既存のウクライナ領経由を置き換えるだけと考えるのは、的外れ。ロシアはトルコのインフラからロシア産以外のガスを締め出そうとしているのだ。

 プーチンはパイプライン建設を進めるため、新パイプラインにトルコストリームという名を冠した。しかし、パイプラインは全面的にガスプロムとロシア政府が資金を出す。トルコのボタシュがパートナーでないことを考えると、プロジェクトをトルコストリームを呼ぶのは、もっぱらトルコ側への言葉上のサービスである。しかも、プーチンは、トルコ・ギリシャ国境のトルコ側に取引拠点を設けるとしており、ボタシュの保有しないロシアのハブがトルコの国土に生まれることになる。

 トルコ側は、アンカラから30kmのところにある内陸のアヒボズにハブを設け、そこを欧州への供給起点にしたい意向を有している。しかし、現在の政府の戦略からすると、それは非現実的だ。トルコは輸出するだけの充分なガスを市場に持っていない。ハブというのは普通は、大規模な貯蔵施設と自由な競争に依拠するものだ。しかも、トルコのガス需要は少なくとも2030年に至るまで長期契約でカバーされている。さらに言えば、ガスプロムはアヒボズのハブに反対している。

 もう一つ争点となったのが、トルコストリームのガスの価格である。2015年初頭にガスプロムとボタシュの価格交渉が始まり、ガスプロムはトルコストリームの海洋部分の許可と引き換えにトルコにガス値引きを提供することを提案した。ボタシュが20%の値引きを求めたのに対し、ガスプロムはこれを断った。交渉の末、6月にトルコ・エネルギー省はわずか10.25%の値引きに同意した。トルコは、ロシアへの交渉力をあまり持ち合わせていなかったようである。

 トルコが地中海における地政学的な役割を高めるという見方が、多く語られた(特に、2014年に南東欧の対ロシア・ガス依存の脆弱性が浮き彫りになってから)。しかし、ロシアの攻撃的なエネルギー戦略に対する防波堤にトルコがなってほしいという欧米の期待は、遠のきつつある。

 トルコのガス市場は上述のような硬直性を抱えており、トルコはボタシュを分割することによってそれを克服することは可能である。ガスの供給を輸送から分離する大胆な改革にボタシュは反対しているが、それは必須である。ガス補助金が選挙の集票に利用されていることを考えると、困難ではあるが。

 ボタシュをめぐる手詰まり状態を打破するためには、トルコはLNGインフラに投資すべきである。それにより、トルコの選択肢が増え、市場が長期契約からより透明性の高い価格に移行し、ユーザにも柔軟性という恩恵が生じる。さらに、LNGインフラの整備により、トルコは他の国とのスワップ取引も可能になり、それにより、トルコはカスピ海のエネルギーを欧州に運ぶ十字路の地位に近付ける。

 しかし、長年にわたり規制の恩恵に与ってきたボタシュの存在により、LNG部門の発展が常に妨げられてきた。トルコが改革に踏み切らなければ、長期のパイプラインガス契約に縛られ、地下貯蔵キャパシティは不充分に留まることになる。言い換えれば、トルコのガス政策は完全にロシアに有利なものになっている。

 トルコにとっては、EUのようなガス・ハブを模倣することは、予想したよりも困難であることが明らかになりつつある。トルコは、競争を奨励し、ロシアに優位に立ち、有利な地理的位置を活かし、エネルギーの輸送路になるのに必要な手段を持っていない。状況は徐々に改善されているとはいえ、エネルギーを通じて自国の戦略的な重要性を高めるというトルコの目標は実現から遠く、これは欧米にとっては良くない、ロシアにとっては良い知らせである。


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