前の記事の続きで、政治工学センターのマカルキン第一副所長による大統領選後のロシアの展望の続き。

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 政権にとっての脅威は、モスクワのミドルクラスを支持層とする反政府運動だけではない。それは、体制を弱体化はできても、それ自体では、「タハリール広場」(エジプト革命の震源地)に繋がるわけではない。むしろ注目すべきは、プーチンを支持した有権者の動機だ。これらの中核的支持層は、数百万の家父長的な価値観のロシア人であり、主に公務員や年金生活者だ。彼らは庇護者としての国家を求めており、安定を欲するだけでなく、少しずつでもいいから一貫して自分たちの生活水準を引き上げてほしいと願っている。「黄金の2000年代」が、それは可能であるということを見せてしまったから、なおさらだ。ところが国家は、石油が200ドルにでもならない限り、まったく異なった政策をとらなければならないのだ。

 この矛盾した状況を、市民社会の参加を得て、社会的心理を極力考慮したうえで、政治的手法によって解決しなければならない。すでに体制支持派の国民の一部は、いくつかの具体的な不満から失望を感じ始めており、この地下でくすぶっている火災は燃え上がっていく。

 このことは、プーチン支持層のより周縁的な部分には、より一層当てはまる。これらの一部は、「失うもの」が一応はある人々で、他の候補が大統領になった場合のカオスを心配して、プーチンに投票した。別の人々は、プーチンの他に現実的な選択肢を見出せず、プーチンに入れた。確かに、プーチン以外の候補者を大統領として想像することは困難だし、彼らにとって批判票を投じることは無責任なことと思われたのだ。両者とも、自らの選択が報いられていないという不満を感じている。

 普通、選挙に勝った者は「100日間のハネムーン期間」を与えられるものだが、上述のような状況ゆえに、プーチンはそれを望めない。プーチンは最初から、社会全体に受け入れられるような多価的な改革を実施することを宿命付けられて、大統領の座に就くことになる。こうした状況では、社会の中で最も活発で、自立的でクリエーティブな層と、とりわけ反政府運動が盛り上がる中で仲介役となれるような層と、正常な関係を築くことが差し迫った課題となる。政権関係者の発言振りからして、それをやるのは困難で心地悪いが、それでも必要である。

 その端緒の一つはすでに現れており、政党制の自由化により、政治家が政党の結成という正常な活動に取り組めるようになっている。そうした建設的な活動が生じれば、野党活動家は破壊者であるといった偏見が無益であることも明らかとなろう。ただし、一連の新党が結成され、それらが表舞台の政治に登場し、その支持率が高まってくれば、現在街頭の集会で唱えられている下院選挙の前倒し実施という要求が、より高まることになるだろう。それに加え、野党はすでに、モスクワ議会選と市長選の前倒し実施も要求している。現在、モスクワ市議会の35議席のうち32議席を統一ロシアが占めているが、反政府活動が最も盛んなのがモスクワである以上、選挙の早期実施を求める声が上がるのは当然である。

 今後、時間が進むにつれ、下院選前倒しの要求は宣言的なものから現実的なものとなっていく。注目すべきことに、大統領選では、プーチン以外の候補は誰も勝つチャンスがないのに、稀に見る活発なキャンペーンを展開した。それは、彼らが政党の党首で、下院選が早期に実施される可能性をにらんで、またライバルとなる新党が登場してくることを見越して、選挙戦を最大限に利用しようとしたからである。今のところプーチンは下院選のやり直しの可能性を否定しているが、状況が急変する可能性もある。

 政権側と体制外野党が相互不信を抱き、お互いの声に聴く耳を持たない態度を続ければ、劇的な結果を招来しかねない。一方では、選挙の結果として、一部野党政治家の言動が過激化し、穏健な人々はそれから離れていった。同時に、リベラル派の支持を得たいプロホロフのような政治家は体制批判の声を無視することはできず、プロホロフもプーチンとの会談後に街頭集会に出向いた。他方で、3月5日のモスクワとペテルブルグにおける政権側の強硬な対応は、自らの力に関する自信のなさ、ほんの些細なことでロシア版の大衆革命に繋がりかねないという恐怖感を示しているものとも受け取れる。

 さらに続く。

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