少々フォローが遅れ気味であるが、プーチン首相の命を受けたロシアの専門家グループがこのほど、同国の今後の政治・経済政策の根幹となる基本文書「戦略2020」の新版を策定した。差し当たり、こちらのサイトに掲載された論評(やや偏った評価という感もあるが)を、抄訳して紹介したい。

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 「戦略2020」の新しいバージョンが今般作成された。850ページからなる大部の文書であるが、内容的にはこれまでの一連のバージョンと大差ない。相変わらず、非資源経済のイノベーション的な発展を刺激付ける解決策は提示されていない。少なからぬ部分ではむしろ、すでにある問題を深刻化する解決策が示されている。

 経緯を整理すると、「戦略2020」はプーチン首相の指示により、「専門家グループ21」が策定に当たっている。最初の草案は、経済発展省の主導によって起草され、2008年秋に政府が承認した。しかし、世界経済危機の関係で、戦略の修正が必要になった。その修正作業は、上級経済スクールおよび国民経済アカデミーに委ねられ、2011年8月に第2の中間案が提出された。当時は、2011年12月1日までに最終案が準備されると想定されていたものの、冬になって、最終案は選挙後に出るということが明らかになった。ナビウリナ経済発展大臣は、戦略2020に関する最終的な決定は新政府、新大統領が下すことになると明言した。

 最終的な文書には、中間案の段階で示された提案の大多数が盛り込まれた。完成した報告書は、経済・社会管理における伝統的なリベラル・制度的アプローチを基調としているが、これらは効果がないことが実証済みである。マクロ経済安定化に多大な関心を払う一方、国民産業発展の課題は素通りしている。たとえば、GDP実質成長率を年間5%以上とし、インフレ率を5%以下に抑制し、銀行の最低資本額を数倍に拡大し(これは国内金融システムの弱体化を招く)、国防支出を縮小し、非効率な企業への支援を停止するとしている。さらに、社会税を現状維持とする一方、天然資源採掘税を導入し、資産税を累進課税とするとしているが、これで非資源部門の投資魅力が増すとは思えない。

 戦略では、同戦略を実現することにより、資源経済からイノベーション経済への移行が図られると強調されているが、それはこれまでエコノミストたちが示してきた3つの提案と矛盾する。第1に、銀行の最低資本額を引き上げるという方針だが、これは地方銀行の消滅につながる恐れがあり、地方のビジネスが融資を受けられない事態に繋がりかねない。そうなれば、非資源イノベーション経済の発展など、望むべくもない。第2に、非効率的な企業への支援を停止するという方針が示されているが、たとえば最近の危機の局面をAvtoVAZが乗り切ることができたのはまさに国家支援の賜物であり、その結果として同社は近代化に着手している。第3に、国防予算を削減するという提案は、長らく政府内や専門家の間で語られてきたものだが、プーチン首相も再三述べているように、国防への投資は新技術への投資に他ならず、その効果は国防産業だけにとどまるものではない。

 戦略2020のなかで、数少ない前向きなくだりは、年金制度についてのそれであろう。任意年金の共同出資の制度を発展させること、受給年齢を引き上げることが提案されている。しかし、2030年までに男女とも63歳に引き上げるとする点を除いては、特に新味はない。戦略2020でもう一つ前向きに評価しうるのは、住宅ローンのコストを引き下げることを提唱していることだが、それに向けた具体策は示されていない。

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