珍しく文化の話題である。HPロシア・コーナーのNo.0132の記事で見たとおり、2011年のロシア文化の最大の話題と言えば、ボリショイ劇場の改装工事が完了し、11月にそのこけら落としが行われたことだった。その演目には、バレエ「眠れる森の美女」が選ばれ、11月16日と20日に公演が行われた。今般、NHKのBSプレミアムでその模様が放送されたので、観てみた次第だ。

 個人的に、ロシア圏の仕事をしていながら、バレエはまったく不案内。恥ずかしい話、毎年何回かモスクワに出かけるのに、ボリショイ劇場に足を踏み入れたことはこれまで一度もない。ただ、以前ブログにちらりと書いたとおり、昨年12月にウクライナのリヴィウでバレエを鑑賞する機会があり、それが思いのほか楽しかったので、ようやく多少興味を抱いたところだった。そうしたなか、NHKがボリショイの新装開店公演を放送してくれるというので、たまにはロシアの文化的な側面も見ておかなければなるまいと思い、鑑賞した次第だ。5.1サラウンドで放送されたので、久し振りにサブウーファーまで使って自宅のホームシアターを稼働させた。なお、番組を制作したのは、ロシアではなくフランスのテレビ局のようだった。

 何しろ、予備知識がまったくないので、出し物自体へのコメントは差し控えておく。「赤い衣装を着た森の精(?)の踊りが、がきデカみたいだった」とか言うと、育ちの悪さがバレてしまうので…。私がロシア研究者として注目したのは、ボリショイ・バレエ団が初めて外国人をプリンシパルとして招聘し、今回のこけら落としでも主演を務めていたという点である。しかも、それが米国人だという。これは日本で言えば大相撲の横綱の座に初めて外国人が就くようなものではないかと想像され、個人的にその背景やロシア国内での反応に興味が湧いた。

 まあ、あんまり詳しく調べているヒマはないが、問題の人物は、アメリカ・バレー・シアター出身のデーヴィッド・ホールバーグという。ホールバーグのインタビュー記事が、こちらのサイトに出ている。この記事によれば、ボリショイが外国人をプリンシパルとして招くのは、19世紀末以来なかったことだという。ホールバーグ自身、芸術監督のセルゲイ・フィリンが米国人である私を招聘したのは、とても勇気のいる行為だったはずと発言している。インタビューでホールバーグは、米国でのキャリアには満足しているが新しい挑戦のためにボリショイに来た、自分はロシア文化の一部となるつもりで当然のことながらロシア語も勉強するつもりである、などと述べている。

 テレビの画面で観る限り、ロシアの観客がホールバーグを拒絶しているような雰囲気はなく、暖かく迎えている印象を受けた。


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