20130601russiacup

 6月1日、サッカー・ロシアカップの決勝があった。CSKAモスクワとアンジ・マハチカラが対戦し、本田圭介所属のCSKAが優勝を決めた。

 この決勝戦については、個人的に注目していた。決勝戦の会場は、なぜかチェチェン共和国のグロズヌィだった。その決定が発表されたのは、本年4月だったが、カップ戦の決勝の会場などというのは大会が始まる前から決まっているのが普通であり、私なども何とも言えない違和感を感じた。その後、CSKAは5月に決勝進出を決めたのだが、CSKAのサポーター組織はグロズヌィでの決勝戦をボイコットすると表明した。あえて治安に不安のあるグロズヌィで決勝を開催するというロシア・サッカー協会の決定に政治臭を感じ取り、ボイコットを決めたようだ。対するダゲスタン共和国マハチカラは、グロズヌィから直線距離でわずか150kmの距離にあり、同じイスラム圏ということで、グロズヌィは事実上のホームのようなものだ。このように、今回の決勝戦は、ロシアの政治・地域・民族事情という観点からも興味深い構図となったので、個人的に注目していたというわけである。

 で、現在、ロシア出張中なので、テレビでこの試合を観戦することができた。ロシア2チャンネルで、試合開始の1時間くらい前から専門家が解説などをして、それなりに大きな扱いだった。会場の様子が映し出されると、なるほどグロズヌィのアフマト・アレーナはアンジのチームカラーの黄色一色であり、ほぼ全面的にアンジのサポーターで埋め尽くされている様子だった。しかし、どうも中継の様子がおかしい。試合開始の現地時間13:30を過ぎても、観客席ばかりが映し出されている。そして突然、ピッチの試合の様子が映し出されたと思ったら、もう試合開始から2分くらい過ぎていた。要するに、技術的なトラブルで、ライブ映像が途切れているようなのである。その後も、試合中に数回にわたって、ライブ映像が途切れることになった。この試合、7分にCSKAのムサがカウンターから先制するのだが、何とまさにその時間帯の中継が途切れており、再開したらスコアが1:0になっていたというお粗末な放送振りである。日本であれば、アナウンサーは平謝り、くどいくらいにテロップが流れると思うが、ロシアの実況担当者は悪びれた様子すらないんですねえ。まあ、試合後半には、不具合はほぼ解消していたけれど、ロシアのスポーツ中継の後進性を見た思いがした。

 さて、肝心の試合の中身だが、この日のグロズヌィは猛暑だったらしく、暑さという要因が試合の質を決定付けたように思う。先日のチャンピオンズリーグ決勝の目にも止まらぬ激しい攻防の記憶も新しいだけに、このロシアカップの決勝は、何やらスローモーションを観ているようだった。本田は、4-4-2の右MFで先発。怪我明けで、まだ完全にフィットしていない上に、この暑さなので、最初からほとんど歩いてましたねー。球際はほぼ負けてるし。まあ、CSKAの戦い方自体が、まったくプレスはかけずに、アタッキングサードくらいまでは敵に自由にボールを運ばせて、そこから先は4+4のブロックで跳ね返しましょうというものだったから、本田もそれに合わせて省エネで動いていた感じ。CSKAとしては、そういう安全運転で、望外にも先制できちゃったので、あとはCSKAのブロックをアンジがどう崩すかというのが試合の焦点になった。結論から言えば、アンジの攻撃は、ことごとくオフサイドになったり、ジルコフのクロスが精度を欠いたり、何回か裏をとれた場面ではCSKAのGKアキンフェエフがビッグセーブを見せたりといった具合で、ことごとく失敗に終わっていた。

 なお、注目の本田は、この日はボールをさばくばかりで、ワンタッチの意外性のあるパスで局面を変えるようなシーンはあったものの、得意のボールキープで時間をつくる場面が少なく、結果CSKAに収まりどころがなくなり、ボール保持率で劣勢に立つ一因になっていたと思う。疲れが見えてミスが目立ってきたところで、67分ベンチに退いた。

 後半途中までは、このままCSKAがのらりくらりとやりすごすかなという雰囲気もあった。しかし、74分、アンジのジアラ・ラスが意表を突いたミドルシュート。ディフェンダーの間から飛んできて外に鋭く逃げていくシュートに、さすがのGKアキンフェエフもなすすべがなく、これがサイドネットに突き刺さって同点に。CSKAにとってさらに悪いことに、87分にボランチのヴェルンブルムが相手を飛び蹴りで倒してしまい、これが一発レッド、数的不利に陥った。先制してから、これといったフィニッシュもなかったCSKAは、さらに攻め手がなくなり、一方のアンジもあまり有効な攻めは繰り出せなかった。案の定という感じで延長に突入しても両者決め手を欠き、本田がピッチから去ったこともあって、ちょっと観ている当方も眠くなるようなユルい試合に。延長30分を戦っても決着が着かず、PK戦で雌雄を決することとなった。

 その際に、目を引いたのは、CSKAのアキンフェエフとアンジのガブロフという両GKがPK戦の前に親しげに言葉を交わしていたこと。それもそのはずで、ガブロフはほんの2年ほど前に、怪我をしたアキンフェエフの穴を埋める形で、CSKAでプレーしたこともあるからである。試合後のインタビューでアキンフェエフが語ったところによると、「早く終わりにしたいね」というようなことを話していたらしい。PK戦というのは、GKの見せ場とも言えるが、残酷な試練でもあるわけで、シーズン最後の試合、それもカップ戦の決勝で、PK戦に臨まなければならない両GKには、2人にしか分かり合えない感情があったのだろう。結局、PK戦では、CSKAの最後のキッカーであるドゥンビアのループシュートが、ガブロフの指先をかすめるようにゴールに吸い込まれ、この瞬間にCSKAのリーグ戦と合わせた二冠が決まった。

 試合後の優勝セレモニー。最後まで「アンジ」コールが鳴りやまない中で、CSKAのアキンフェエフが優勝トロフィーを掲げた。アキンフェエフも語っていたようだが、ロシアカップのタイトルをより強く欲していたのはおそらくアンジの方であり、CSKAの選手たちにはむしろリーグチャンピオンとして面目を保ったという安堵感のようなものが見て取れた。最後の最後に、CSKAのサポーター席が映し出されたが、せいぜい500人くらいのように見えた。さて、本田圭介にとってはこれがCSKAでの最後の試合になるのか、それともロシアチャンピオンとして来季のCLを戦うのか?


ブログ・ランキングに参加していますので、
よかったら1日1回クリックをお願いします。
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ