20130329monozukuri

 標記のような書籍を読了した。商品説明によれば、その内容は、

 相手はサムスンではなくアップル・EMS連合軍だった―― シャープやパナソニックが大赤字に陥るなど、日本の製造業が苦境に陥っている。著者はその主因として、日本のメーカーが製造プロセスの垂直統合にこだわり、EMSを活用した水平分業の流れを理解しなかったことを指摘する。世界のモノづくりは劇的に変わっており、日本式の優位性は崩れ去ったのだ。では、成長する新興国市場に飛び込めば、収益があがるのか? そこでは、際限のない価格競争が繰り広げられている。日本メーカーはどのような方向で戦略を練り直すべきなのか。「世界の大変化への対応で必要とされるのは、現場力ではなく経営力!」――ビジネスモデルの再構築に取り組む日本メーカーに、多くの示唆を与える。

第1章 アップルは製造業のビジネスモデルを変えた
第2章 日の丸エレクトロニクス敗退の原因
第3章 巨大EMSというバケモノ
第4章 若い企業と新世代が中国を変える
第5章 垂直統合・系列・蛸壷社会
第6章 系列解体後に中小・零細企業はどうなる?
第7章 旧体制が支配する中国の金融
第8章 金持ちなのに弱い日本の金融力
第9章 新興国とどう向きあうか
第10章 改革の推進主体は、政府でなく経営者

 余談ながら、私はこの本を、hontoという電子書籍ストアで購入した。物理的な本でも、電子書籍でも、お値段は少ししか違わない。私は、読み終えた本を古本屋に売る習慣はないが、考えてみれば電子書籍の場合そのような転売は基本的にできないわけで、現状の電子書籍の価格設定は割高な気がする。また、私は経済学の本を電子書籍で読んだのはこれが初めてなのだが、ePubにはページ数が記載されておらず(縦・横や文字の大きさに応じてページのレイアウトが変わるので)、これでは論文などで引用するのに難儀する。

 さて、この『日本式モノづくりの敗戦』、中国の問題に多くの紙幅が割かれている。野口先生は以前から、新興国の工業化で、日本が従来特化してきた製造業の分野がコモディティ化し、そのデフレショックこそが日本の不況の本質であって、そうした中で円安誘導により日本の製造業を延命させようとすることは愚の骨頂で、日本は米国型に学び新たな産業の創出に向かうべきだという趣旨のことを主張してこられた。本書では、その主張を集大成している観があり、私も野口先生の著作をすべて読んでいるわけではないが、ここまで詳しく中国について論じておられるのは、個人的に初めて読んだ。

 本書に関しては、「製造業を悪者扱いするとはけしからん」とか、「日本から製造業がなくなって、では我々若者はどうしたらいいのか」といった批判的意見が少なからず寄せられているようである。私自身は、本書の分析は正しく、主張されていることはすべて正論だと考える。ただ、たとえば岐阜県のある街からSONYの工場が撤退し、企業城下町で失業者が溢れるという現実がある中で、アップル型の企業が適時に日本に誕生し、今現在実際に企業城下町で路頭に迷っている人々を吸収できるかというと、そういう実感が沸かないのも事実である。合理性の観点からは、長期的に進むべき道が野口先生の唱えるようなものであるにしても、その過程が困難であろうことは想像に難くない。

 私は静岡県出身であり、数年前に、静岡県の工業出荷額は、東北全体のそれよりも多いという話を聞いた時に、誇らしく思ったものだ。しかし、この『日本式モノづくりの敗戦』では、日本の構造転換の遅れを象徴する製造業地域の一つとして静岡県が扱われており、微妙な心境にもなった。日本においては、農業が競争力の低い産業の代表格であり、総選挙の際の一票の格差も農業県を守るような構図になっていることは知られているが、野口先生によれば、一票の格差には製造業偏重の傾向もあるとされている。また、TPP=日本開国という論調が一般的ななか、本書ではむしろ、TPPが旧産業たる製造業の輸出促進を図るための反動的な政策として位置付けられている。

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