以前の記事で報告したとおり、ユーロ2012の敗退の責任をとる形で、ロシア・サッカー協会のS.フルセンコ会長が6月に辞任した。その後任を決める投票が9月3日に行われ、オリンピック委員会のN.トルスティフ専務理事が新会長に選出された。本件に関する9月4日付『コメルサント』紙の報道振りを、以下のとおり抄訳しておく。

 ロシア・サッカー協会の会長選挙は、トルスティフ氏の勝利に終わった。これは、ロシア・サッカーにおける新たな変革の開始を意味するかもしれない。というのも、トルスティフ氏は、過去数年間進められてきた改革の反対者だったからだ。従来の改革を推し進めてきた主要クラブのオーナーたちは、今回の会長選でトルスティフのライバルであるS.プリャトキン(ロシア・プレミアリーグ会長)を推していた。

 トルスティフは1990年代からロシア・サッカー界の顔役だったわけで、昨日の選挙で勝ったことにより、その最高指導部に復帰したことになる。トルスティフは当時、ディナモ・モスクワの幹部を務めるかたわら、「プロ・サッカー・リーグ」の会長を務めていた。「プロ・サッカー・リーグ」はかつてすべてのカテゴリーのプロ・リーグを束ねていたわけだが、ロシア・プレミアリーグの登場に伴い下部の2つのカテゴリーを合同し、2010年にS.フルセンコ・サッカー協会会長の圧力もあって解散となった経緯がある。

 以前にもトルスティフは協会会長の座を目指したことがある。1998年にも会長選に出馬したのだが、わずか8票しか獲得できず、四半世紀も会長の座にあったV.コロスキー氏に完敗したのだった。その7年後に、クレムリンも介入することで、ようやくコロスキーは会長の座を明け渡した。

 昨日の選挙は出来レース的な見方をされ、トルスティフの当選が確実視されていた。すでに夏の時点でV.ムトコ・スポーツ相がトルスティフを支持し、それは政権側の総意であると思われたからだ。しかし、選挙の会場であるホテル「ルネサンス・モナルフ」に集まった参加者は真剣そのもので、ガチの選挙の様相を呈した。もっとも、7人の候補者のうちV.トゥマノフは、「最初からトルスティフが勝つに決まっている」と称して、会場に現れなかったが。それでも、プリャトキン候補を推していたCSKAモスクワのYe.ギネル社長などは、議事進行につき、まず49名の新会員を協会に受け入れる決定を下してから、その後に会長選挙を行うべきだと主張して、N.シモニャン会長代行に大変な剣幕で詰め寄っていたという。

 投票前の演説でそれぞれの候補は熱弁を奮った。しかし、当然のことながら、参加者の注目は、トルスティフとプリャトキンという2人の主要候補に集中した。両者とも、地域協会の代表者へのアピールを強く打ち出し、地域の状況に配慮する姿勢を示した。それも当然であり、地域協会は75%もの票を持っているのである。ただ、トルスティフの方は、「サッカーは国家的なスポーツ種目である」と述べ、権力の支援なくしてその発展はありえないとの考えを示した。一方、プリャトキンの側は、選出されるのは個人ではなくチームであると述べ、自らがプレミアリーグの主要クラブの豊富な人脈をバックにしていることをほのめかした。彼はこれまでもプレミアリーグのビッグクラブの利益を代表してきたのである。

 第1回投票の結果、トルスティフが139票、プリャトキンが118票を集め、残りの泡沫候補たちは合計で17票だった。第2回投票までの間の時間にはめまぐるしい動きがあり、泡沫候補がトルスティフまたはプリャトキン支持を訴えて出馬を取り下げる動きなどがあった。プリャトキンは、投票が行われるホテルの2階と、ビッグクラブの代表者たちが詰めている1階の間を行ったり来たりしていた。一方、トルスティフは、実は第2回投票で139票を維持すれば勝てたのだが、陣営では「寝返り」が出ることを危惧していた。

 結局、第2回投票で、トルスティフが148票を、プリャトキンが124票を得票し、前者が勝利したわけである。実際のところは、プリャトキンの得票は立派なものだった。プリャトキン陣営は70の地域協会のうち32を抱き込むことに成功したとされる。しかも、会長選挙後に選出された新会員49名は、ほぼ全員がプロ・チームの代表者であり、したがってプリャトキン派に近いと考えられる。ロコモティヴ・モスクワのO.スモロツカヤ社長はすでに、既存の会長選挙方式は、地域協会が75%という過大な票を有しており、これをクラブの票を増やす方向で改変すべきだと唱えている。

 かくしてトルスティフ新会長は、ロシアのサッカーを発展させ、S.フルセンコ前会長が残した8億ルーブルに上る債務を返済するための資金集めを迫られるだけでなく、どうやら同じくらい切実な問題にも直面しそうである。つまり、協会内に、自らと考えを異にする大グループを抱え、彼らとの妥協を探らざるをえないわけである。トルスティフはこれまで、プレミアリーグがゴリ押しする形で導入された秋春制への移行や外国人枠の緩和には、反対してきた。会長選出後、トルスティフは、物議を醸す提案は慎重に検討する必要がある、何がロシアのサッカーのためになるのか、ならないのかについて、お互いを説得するよう努めなければならないと述べた。トルスティフは平和的な議論に期待していると述べたが、どうやら対決は避けられそうもない。


ブログ・ランキングに参加していますので、
よかったら1日1回クリックをお願いします。
にほんブログ村 海外生活ブログ ロシア情報へ